トゥレック トゥ ザ・スター
私の名はオーデル。もちろんこれは本名ではない。
あくまで国際連盟宇宙軍から与えられたコードネームで、本名は別にある。
軍での階級は少佐だ。
現在は赤色矮星ティーガを基点とした宇宙地図を作りながら、月面基地から飛び立った同胞の捜索を続けている。太陽系から12.5光年も離れたこの星を基点に選んだのは、地球型の惑星をふたつも従えているからだ。
それも、ふたつの惑星はどちらも居住可能惑星ときている。
資源も豊富にある事も見込まれるとあれば、放置する理由などどこにも無い。
もっとも第1惑星は居住可能とはいえ、いささか気温が高そうだが。
ここで我々はひとつの決断をした。
環境が地球に似ている第2惑星を第2の地球にしよう、と。
だがここで、ひとつだけ告白しなければならない事がある。
我々はいささか遅刻をしてしまったようだ。
なぜならば、第2惑星に着陸した我々は、ある遺跡を見つけてしまったからだ。
そこに残された碑文に刻まれていた文字は楔型文字と呼ばれるもの。
そして、驚くべきことに碑文は比較的簡単に解読する事が出来た。
つまりここは太陽系に生まれた文明世界の植民地だったという事になる。
『だった』と言ったのは、比喩でも何でもない。
この惑星の植民した人類が全滅した訳でも何でもない。彼らは自らの意思で別の場所へと旅立った後だったからだ。
だからこの惑星は引っ越しをした後の空き家、とでも言えば良いか。
彼ら──太陽系第4惑星──火星からの植民者がアルサーニと名付けた惑星に不具合があった訳ではない。赤色矮星というのは、恒星としてはいささか不安定な部類に入るので、それを嫌っただけの事だ。
この惑星に再植民することが出来れば人類の未来は明るいかも知れない。
「オーデル… 聞こえてる?」
何か起こったようだ。すまないが記録を一時中断する。
フリーデは沈着冷静で知られる森の民だ。
その彼女が呼んでいるという事は、何かヤバい事が起きたという事だ。
深刻な事態に陥る前に何とか出来れば良いのだが……
8000 3A 10 80 32 11 80 C9……
8001 ……
フリーデが何を言い出すかと思ったら、単にメシの時間だったそうだ。
朝飯食ってから記録を始めたんだが、まだ夕方… まあ、いいか……
地上での探査と並行して、軌道上では宇宙船の組み立てが始まっている。
倉庫区画にはコンセプション級宇宙船の部品がぎっしりだ。
部品は球形艦4隻に分散して乗せている。重要でかさばる部品や材料は私の乗る200メートル級に。残りは100メートル級3隻で。
艦載コンピューターの在庫目録にはロクに目を通していなかったから、言われて初めて気が付いたんだが……
そしてこいつを使う時は球形艦の一部をバラして使う事になっていたが、幸いな事に資源は下の惑星から持ってくればいい。
ハンスが鉱山跡で精製された純鉄の山が見つけてくれたたお陰だな。
充分な量の鋼材を作ったら、あとは自動装置に任せておくだけだ。
その間に進めていた惑星探査も、けっこう捗ったものだ。
今はまだ調査中だが、第2の遺跡も見つかったからね。
お陰で1か月くらいで宇宙船の組み立ては終わったよ。主要部品以外はフレームと外壁パネルだけという簡易生産タイプだが、一応は使えそうだ。
一番面倒だったのはエンジンを超光速機関に改造する事だったかな。
いよいよ出発させようという所で悪戯を思いついたのはハンスだ。
「俺様が思うに、暖かい食事を食堂に置いたら地球の連中は驚くと思うぞ」
どうだ? と言われてもな。その発想は真っ当なドワーフのものじゃないぞ。
フリーデだって、思っても口には出さない内容だろうと思っていたが……
「エルフだって悪戯を楽しみたい時はあるのよ?」
フリーデ、お前もか。
「なにしろ、アルサーニには娯楽が少ないからな。この位は良いと思うぞ」
「……そうだな。じゃあ、俺は手紙を書いておくよ」
コンセプションが完成したのは組み立てを始めてから1か月後の事だ。
こいつを操縦するための乗組員は無しだ。自動操縦で地球を目指す事にした。
とにかく致命的に人材が足りない。たった3人では出来る事に限界があるんだ。
それに自動化できるところに人間を配置しなければならない理由なんか無い。
正直言うと、漂流中の球形艦の曳航で忙しかったんだ。
宇宙嵐に巻き込まれて遭難したようだが、乗組員は僚艦に避難したらしい。
機関故障の修理が間に合わなかったのだな。
もちろん、こいつは無事に回収したとも。
そんなこんなで、アルサーニと宇宙を行ったり来たりする日々が続いたんだが。
『オーデル、地球から返事が来ました』
ははは、マジかよ……
ううみゅ…… 頭の中の整理が追い付かなひ。
今日はとっても暑かったせいか、夜遅くまで頭ズキズキなのです。




