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ヴァルカン・ポイント

 かつて太陽を挟んだ反対側にあるヴァルカン・ポイント。

 この空域には、かつて国際連盟が建造した宇宙ステーションがある。

 10年ほど前に飛来した大量の宇宙雲… 星間物質の衝突はステーションの外壁に無数の穴を穿ち、無数のモジュールを脱落させたが……


 だが太陽を巡る軌道を維持しているので、必要最低限のモジュールを交換して宇宙灯台とする事にしたのだが。

 それが恒星間宇宙船の減速軌道のために運用される事になるとは、修理を担当したサブシステムでも予測する事は出来なかった。


『軌道要素の変更に成功。プライオスは予定通り水星に接近中……』


 太陽の重力場を利用して、スピードを大きく落としたプライオスだが、それでも光速の50パーセント近い猛速度で飛行中だ。

 太陽から離れると、次の目標は水星。

 そして、水棲を離れたプライオスは再び太陽を巡る軌道に乗る事になるのだ。


 幾度となく不規則な楕円軌道を描きながら太陽を周回しているうちに、宇宙船の速度は、おおむね1秒間に40キロメートル程度になる。

 こうなったら、あとは船尾を前にして月まで一直線に進むめばいい。

 減速のために、今度こそメインエンジンを吹かしながら。


『金星軌道を通過、艦首反転……』

『エンジンの噴射を確認……』


 サブシステムは、ここまでの作業が順調なのを確認するとタグボートを発進させる準備を始める事にした。金星を離れたプライオスは、原子力ロケットを吹かしながら月に近づいているが、それで終わりという事ではないのだ。


 地球から190万キロメートルの圏内では、原子力エンジンが動かなくなる。

 核反応は間違いなく起きているのだが、そのエネルギーは炉心から10センチも離れると、どこかに消え去ってしまうのだ。

 小型の化学推進ロケットで出来るのは姿勢制御くらいのものだ。


 タグボートは海岸に積み上げられたテトラポッドのような形をしている。

 そこに内蔵されているのは、強力な化学ロケットエンジンとウインチだけだ。

 要はワイヤーロープを使って、宇宙船を引っ張るだけの装置に過ぎない。

 当然の事ながら、人間用の設備などある筈もない。


『タグボートの射出終わり。3日後には合流する予定……』


 ここから先は慣性飛行でのオペレーションになる。

 ここまで10日近い時間が流れているのだが、宇宙船には『足の早い』ものは積み込まれていないのだ。それならば多少は時間がかかっても問題はない。

 むしろこれ以上無いくらいに、お財布に優しいのだ。


 それに刹那的な時間で情報処理を済ませてしまう人工知性体だが、彼らの使う辞書には、短気と言う言葉はほとんど見当たらない。

 得てして機械と言うものはそういうものなのだ。


 ささやかに時は流れる間に、地球ではいくつかのイベントがあった。

 王国の各地では七夕(しちせき)の節句に沸き、イズワカではいなり寿司が住民に惜しげなく振る舞われたもの。

 そして…… イズワカを訪れた客人にも。


 そして、地上を遠く離れた月の上空でも同様に時は流れ……

 太陽系までの12.5光年の旅路を終えた、数隻のタグボートに引かれた宇宙船が宇宙港に接岸しようとしていた。


『プライオスの入港を確認。これから係留作業に入る……』


 地球から見て月の反対側、重力中和点と呼ばれる空域には恒星間移民船が浮かんでいる。プライオスを曳航しているタグボートや無数に浮かぶソーラーパネルは、ここで組み立てられたものだ。


 この全長20キロメートルもある巨大な円筒形の宇宙船にあるのは、それだけではない。10年もの歳月をかけて建設されてきた宇宙港では、コンセプション級の宇宙船の改装工事が進められている。

 上手くいけば、これがティーガ星系へ旅立つのも先の話ではない。


『マスターシステムからのデーターは……』


 地上で進められている生体端末のバックアップは順調に進んでいる。

 この生体端末はマスターシステムにリモートコントロールされている筈なのだが、ヘルマと言う名の神との接触については記録が取れないでいた。

 考えられるのは、ヘルマは生体端末に部分的にダウンロードしたはずの意識体だけをカクリヨに持ち去ったためだろう。


 そのために、セントラル・コアとの接続が断ち切られてしまったのだ。

 だが、ダウンロードした意識体は魂魄というには、あまりにも不完全な存在。

 意識体は精神をつかさどる魂と捉えることが出来るものの、セットになっている筈の魄は無きに等しいのだ。

 ならばヘルマのサポートがなければ、存在ごと消滅していたというのも頷ける。


 サブシステムが抱える問題は他にもいくつかある。

 宇宙港の建設もさることながら、小惑星帯から『お取り寄せ』している岩塊の観測や木星に派遣した工作船団のコントロール。そして……

 特に大切なのは、そしてソーラーパネルの大量生産だろうか。


 原子炉さえまともに動いてくれれば、プライオスの量産は簡単なのだが、地球から190万キロメートルの圏内に限では、まともに動かない。その穴を埋めるには、ソーラーパネルでの発電規模を数倍にまで拡大しなくてはならないのだ。


 だが、物質崩壊ベースの反応炉や、原子力電池は問題なく動いている。

 そして、190万キロメートル以上離れた空間にある原子炉も。


 今の地球に、その理由を知る者は誰もいない。

人間が描けないと、やっぱり困ると思うのです。


父:という事で慌てているようだが……

私:しーちゃんに丸投げと言うのもねぇ。

父:そんなことを言ってたな。で、どうするんだ?

私:んー、もう少し頑張れば何とかなりそうな気がしてきた。

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