方位探知を試みる
猫神たちが頑張ってデータを揃えてくれたので、さっそくエスター様のお屋敷に。
エスター様は用事があって、数日は還れないという話だけど、執事のセバスさんに話が通っていて、言ったらすぐに図書室に案内してくれた。
「猫神社からからだと…… 北西… ちょっと右かな?」
「やや北寄りでございますね。北西北で宜しいかと」
「ありがと」
私は地図に定規を当てて、鉛筆を走らせる。
白黒印刷された地図は、とても上質な紙を使っている。
王宮で使っているものより厚みがあるし、つるつるとした手触りが心地よい。
しゅる……
地図の上に赤い線が1本増える。
「次は… このお屋敷からね」
街道をたどり、川の流れをたどりながら、地図の一点を指さした。
「ここ… かなぁ」
「惜しいですな。お屋敷はこの辺りでございますよ」
「こっち?」
セバスさんが示したのは、地形のよく似た別の場所だった。
えええ? 川がこう、街道が… なんで? 間違ってないと思うんだけど。
「嶺衣奈様が示された場所には『梅林』がありませんな」
あ! 前に芋ジャージで転移したとこだ。
「…ごめんなさい」
「いえいえ、初めての作業でここまで出来ればご立派でございますよ」
セバスさんは、にこにこと笑いながら、私の見落としを指摘してくれた。
地図の見方が分かっていないので、線をどこから引き始めればよいのか分からないのよね。ここまで精密な地図を見るのは、生まれて初めてだ。
だから1本の線を引くだけの作業に10分以上も時間がかかる。
「……こういうの、簡単に覚える方法って無いかしらねぇ」
「ございますよ」
「えっ!?」
真面目な顔をしているけど、目の奥は笑ってる。
なんだ、セバスさんなりの冗談だったのね。びっくりした。
いつも言っているもんね。
学問は地道な努力の積み重ね、王道などございません…… って。
「地図の読み方について、短時間で習得する手段は無いことはありませんぞ」
「……マジですか?」
彼は軽くうなづくと、言葉をつづけた。
「習得時間は数分程度でございますな。ただし、喪うモノもございますが……」
「……寿命とか、魂とかじゃないですよね?」
「勿論違いますとも。個人差はございますが、人格に変調を……」
「学問に王道なし、ですよねっ!」
私はノータイムで話を打ち切った。
これ以上深みにはまったらヤバい事になりそうな予感がする。
知識は欲しいけど、対価として人格?
そんなリスキーな手段を使うくらいなら地道に勉強した方がマシよ!
「……ここからだと方角は北西北… で良いのかしら」
「そうでございますね」
セバスさんは心なしか満足そうな表情をしている。
定規を地図に当てると、方角をチェック。時計が11時のあたり… ちょい左か。
また一本、地図に赤い線が増える。
「次はガルセリオン翁…… か」
大神殿を再建した後の彼は、シオカの先で隠遁生活を送っている。
住まいは香取海を見下ろす小高い山の上にあるけれど、街道沿いのため、生活に不自由はないと聞いている。
「ここからだと、ずいぶん西に寄るのね」
「左様でございますな」
もしも私の想像は間違っていないとすれば。
いくつも引いた赤線の交わるあたりが時空震の『震源』という事になるはず。
データは残り6か所ね。
さあ、頑張らなくちゃ。
地震の震源とか電波の発信位置なんかも、こんな方法で調べる事が出来るそうです。
実際の手順は、もっと複雑らしいですけれど。




