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猫神、暴れる

 ネコミミ幼女いわく、ここはカクリヨという場所だそうだが。

 冥府の入り口といったところかな。

 いつの間にか出現した建物は、かなり高級そうな造りだ。


「ここはあの世の入り口ってとこですかね?」

『その想像はあながち間違ってもおらぬな。解りやすく言うと、この場は無数の宇宙を内包した時空間の中心近くにあるのじゃ。ここから先は情報とか概念しか存在しない超空間であるからな』


「……突拍子もない話だな。スケールが大きすぎて理解が追い付かん」

『心配するでない。誰でもそういう反応をするものじゃ』

「そうだろうな」


 天文学者の長年の観測から、我々が住んでいるメサイア星雲でさえも、直径は約10万光年、厚さ1000光年もあり、4000億近い恒星がある。そして夜空の星々の多くは、メサイア星雲のような銀河だという事もわかっている。

 それが大宇宙の一部を針で突いたような、ほんの僅かな領域だという事もだ。


「そんなモノを理解出来るのは神様くらいだろうな」

『妾もな、そなた達が神と呼ぶ存在なのじゃからして』


 ……って、神様?


「あんた神様だったのか! ……嘘だろ?」

『やかましいわ』

「少なくとも、俺の知っている範囲には、ネコミミ幼女は居なかったからな」

『言うに事欠いて、そこなのかえ?』


 神殿にある神像は角の生えた冠を戴き、顎から広がるのは豊かな髭、猛禽を思わせる眼光は邪なる者を決して寄せ付けない威圧に満ち満ちていたものだった。

 その御名は……


「神様というのはヤルヤラ様のことだと思ってたよ」


 私はそこで祈りを捧げてから祖先の星(メドリーフ)に……

 あれ?

 なぜメドリーフに行こうとしたんだ?


 ……そう言えば俺の名前は?


 オレハダレダ? ダレダ? ダレダ?

 ワタシ… ハ…………


「むぐぐ……」


 喪われた記憶を無理に引き出そうとしたためか、頭が痛くなってきた。

 なんでだ!

 なんで思い出せないんだ?


『…そなたは魂魄の4割を喪いながらも時空の狭間を漂流していたのじゃ。記憶の欠落くらいで済んだのは運が良かったと思うべきじゃ。より上位の神… ヘルマ様が救いの手を差し伸べなければ、今頃は消滅しておるじゃろう』


 記憶喪失ってのは、自分の名前くらいは憶えていそうなものだが、俺の場合は元の世界の基礎的な知識が残っているだけだ。

 俺が何者だったのか、記憶がすっぽりと抜け落ちている。


「そう言えば、あんたは何者なんだ? ただの幼女とも思えないんだが」

『ん? 妾は別の世界(わくせい)から来た神じゃ。そなたの世界(わくせい)の神はヤルヤラで間違いないぞえ』


「別の世界(わくせい)ですか?」

『そなたが思っているよりたくさんの世界があるぞ。それこそ夜空に輝く星の数ほども。ちなみに妾がいる世界の名前は『地球(ちきゅう)』という』


「チキュウ?」

『そなたたちはラーリッドと呼んでいた星の事じゃ』


 内惑星じゃないか。たしか第3惑星だ。

 祖先の星(メドリーフ)よりも、内側の軌道を回る灼熱の原始惑星だったはず。

 そんな所にも神様がいたんだな……


『悪かったのう、灼熱の原始惑星とやらで……』


 私だって観測衛星を使った観測結果くらいは知っているぞ。

 極地方は極寒の氷原が広がっているのに、低緯度地方はある種の金属ならば液化するような環境だ。それに重力はメドリーフの3倍はあるんだぞ。


『やかましいわ!』

「うぉおおっ?」


 蹴りと同時に、大きな氷柱が飛んできた。

 うお、こっちからは爪か! よく避けたな、頑張ったぞ、俺!


「いきなり何すんだ!?」

『……なんか無性に腹が立ってきたのじゃ』


 俺はネコミミ幼女が繰り出す物理&魔法攻撃の嵐を避けながら、部屋の中を飛び回った。一瞬で高級そうな部屋が廃墟にクラスチェンジしたじゃないかよ。


 ここ、誰が片付けるんだ?

灼熱の原始惑星 Wwwww

ある種の金属ぽいものは、真夏の日本で液化するかも Wwwww

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