お約束のイベントですか?
仕事を終えたおめでた兵員輸送車は、次々と学校を後にしていきます。
レオノールの話では、次の現場が待っているとか。
『じゃあ、あとはよろしくねぇ~』
走り去るおめでた兵員輸送車を眺めていて、つくづく思うのですけど。
昔の人の知恵と言うか汎用性が高いというか。
軍用ハーフトラックでも武器を積んでいないタイプもあったのです。
「さすがはナギね。明日のお披露目には充分に間に合うわよ」
「はわわ… 大きいですねぇ」「……」
たしかに。クラウゼルさんの言う通りですね。
なにしろ組み立てが終わった石像の重さは12トンにもなるのです。
クレーンが無かったら、今頃どうなっていた事やら。
でも、お陰で石像は無事に運び込むことも出来ました。
ユーディとカロリーナは、ぽかんと口を開けています。
さすがに、これだけの完成度ですからねぇ。
「まるで生きているみたい」
ようやく口を開いたユーディが絞り出した言葉はコレですか。
そりゃあね、再現率は高いですよ。なにしろ実在の人物だし、写真も残っていますから。だから、とことんリアルを追求したのです。
服のしわ1本に至るまでシミュレーターでチェックしていますし、石像を鋳型から出した時点でも、かなり削り込みましたからね。
「ねえお姉さま、ホントに歩き出したりして……」
「やめてよぅ、本当に動き出したらシャレにならないわよ」
そんな姉の姿を見てカロリーナは、茶化しますけれど……
実際にそんな事が起きたら、たしかに怖いですね。石像が付喪神にでもなれば話は別ですけれど、そうなるまでには早くても数十年はかかると思いますよ。
でも、ちょっと大きすぎましたかね。
「いやいや、さほどの違和感はないのでおじゃる」
普通の石像は高さが1メートルくらいだそうですが、台座を含めればその倍くらいの高さになる事もあるとか。
だとしたら、私の作った石像も台座込みでも高さ2メートル弱ですからね。
こうして見ると、我ながら良く作ったものだと思いますよ、うん。
「これほどの石像を下賜いただけるとは。水神様の御厚情に感謝いたしますわ」
なんでも、里の人には明日の昼にお披露目をするとか。
だから正門のあたりに屋台が並んでいたのですね。
コーニッグさんも屋台を出していましたね。じゅるり……
「それは良いんですが、里長さん… いくらなんでもコスプレは……」
「ユーディやカロリーナは巫女装束なのに、私だけ別だと変でしょう?」
でも、里長としての正式な衣装は… え、なに?
「お母様は先代の巫女だったのよ。前に話したでしょ?」
ユーディがこっそりと耳打ちしてくれて思い出しましたけど……
でもクラウゼルさんの巫女服姿を見たのは、今日が初めてだったから。
その巫女服、すっごく似合ってません? まるで誂えたみたいなんだけど。
それも今回のために仕立てたようにも見えませんけれど……
まあ、いいか。
これ以上詮索すると、なんか不幸な事になりそうだし。
『それは、とっても懸命な判断だと思うわよぉ』
そうなの? ……まあ、いいか。
とにかく組み立てが終わったのです。石像本体は4分割で済みましたけど、背負子とか台座のような細々とした部品がありましたからね。
とにかく終わりよければ全てよし、なのです。
……てな事があってから、1週間ほどが過ぎまして。
今日も天守閣でお茶会をしている私たちですけど。
「武士団から妙な報告が上がっているのよ」
「私も爺やから聞いたわ。しばらく地上に出ないように、って」
へっ? たしかにオーガが何体か出ましたけれど。
それって討伐済み──私の出番が無いくらい迅速に──って聞いていますよ?
「それが違うのよねぇ」
クラウゼルさんが、窓の外に視線を送っていますが……
特に何かを見ているという訳でも無さそうです。
考え事をしながら、見るとはなしに視線をやったという感じですか。
そんなに悩むようなネタがありましたかね。
「夜中に石像が歩き回っているみたいなのよねぇ……」
「あの石像にはそんなギミック仕込んでいませんけど?」
「でも、見たのはザーラックだけじゃないのよねぇ」
おーまぁい、がぁあっしゅ!
学校の七不思議と言えば、やっぱりコレかも。




