感覚的に出来ること
誰かがこのあたりに転移してきて、その反応はすぐに消えた。
目的は分からないけれど、転移してきた『何者か』は行方をくらました。
時空震の発生場所を絞り込めば、『何者か』の出現地点はわかる。
「……と、いうわけで。私が何をしたいか説明しておくわね」
猫神社には儀式をする本殿のほかに、猫神たちが住んでいる建物がある。
そこの一室で、猫神と道祖神と揚げせんべいをぽりぽり食べながら。
ちょっとした話し合いをしている。
「あの時の転移に気が付いた人は、他にも居るとおもうの」
「嶺衣奈は、どうしてそう思ったの?」
「転移魔法が使えるなら、転移魔法を使ったことは察知できるんでしょう?」
空間転移で空間が歪むと、地震が起きた時のように周りの空間も揺れるの。
時空震という現象なんだけど、それを察知したんじゃない?
「細かい理屈は分からない」と、道祖神。
「あくまでも感覚的にわかる、というだけであるからのう……」とは猫神。
感覚的に分かっているんだけれど、言葉にするのが難しい事ってあるのよね。
この場合がそうだと思うの。
道祖神は何かを考えこむようにしながら、お茶を飲んでいる。
「今回の一件と、それがどう関係するの?」
「嶺衣奈の言っている事は難しくて、ついていくのが大変なのじゃ」
時空震は、文字通り時空間に広がる波のようなもの。
池に石を投げ込むと、輪のように波が次々と起こって、広がっていくけれど、これは縦と横の座標軸しかない2次元だから、輪のようになるけれど。
「何かを水面に落とせば丸い輪のような波が出来る事は昔から知られていること」
「そうじゃな。それは幼子でも知っている事じゃ」
道祖神も猫神も、私の説明をつまらなそうに聞いている。
たしかにね。実際に描いて見せれば、言いたい事を理解してくれるかな。
私は放り出されているチラシを拾うと、裏に適当に印をつけて、線を引いていく。
「たとえば、ここから、この方向。こっちは、この方向というのをまとめたら…」
「探す場所を絞り込むことが出来るのじゃな」
「場所と方向。これだけ分かれば、あとは私がやってみる」
これだけあればエスター様に頼みに行ける。運が良ければ地図が手に入るかも。
「転移魔法の使い手は全員分かっているから、聞き込みは可能……」
「じゃあ、あとはお願い。私は牡丹餅つくるのを手伝いに行ってくるね」
私は神社を出ると叔母様の家へ向かった。
春のお彼岸に牡丹餅は欠かせない。
スーパーで売っているのも美味しいけど、うちではちゃんと作ってますよ。
大変なのは小豆を美味しく煮ること。
徹夜作業になるけれど、ここばかりは愚兄に感謝だわ。
「あらあら、嶺衣奈ちゃんは不器用ねえ」
伯母様と母が、ぱっぱぱっぱと牡丹餅を作るそばで、私もそれを手伝います。
どうしても、ご飯の大きさが揃わないのよね。
教えてもらった通りに、ごはんをしゃもじで分けて、丸めているんだけど。
「なんで、倍も、大きさが、違う、の?」
「量りもしないで同じ大きさに出来るおかーさんが変なの!」
無造作にご飯を丸めているだけなのに、ほとんど同じ大きさなのよね。
こういう時のおかーさんは謎の宇宙生物に見えてくる。
「まあまあ、いいじゃない。そのうち嶺衣奈ちゃんも出来るようになるわよ」
伯母様、なんで手元も見ないでそこまで出来るんですかね。
女子高を主席で卒業したのは伊達じゃない?
そぉ、ですか。
……ぐっすん。
あとしばらくすれば、桜の花も咲き始めるでしょう。
桜の花と葉っぱは保存できるようにしなくちゃ。
桜餅やおにぎりのトッピングに良いし、桜湯も風情があって良いものだわ。
塩漬けくらいは私だって作れるもの。
「嶺衣奈ちゃんが作ると、塩抜きが大変ですけどね」
伯母様……
それは言わないお約束ですよ。
牡丹餅は買ってきて食べるものであって、作って食べるものではないです、ハイ。




