超音速ジェット機は木材で
とんてんかん、とんてんかん。
ぎこぎこ、ごりごり。
「これで格納庫は出来たと思うんだけど……」
凱旋門の前には、丸太小屋が建っています。
木の伐採には埴輪さんとラジコン多脚戦車が頑張ってくれました。
飛行機の格納庫だけではなく、埴輪さん達のスペースがありますから小さめのスーパーくらいの大きさはありますよ?
『よく考えたら、ナギのストレージに頼らなくても良かったのよね』
「……深く考え過ぎたというか、考えが及ばなかったというか」
ダンジョンの床をザラザラにして、重力を戻してやるだけでよかったのです。
それだけの作業で、荷車を引いたハーフトラックが通れるようになったのですから、何と言いますか。
それに気が付いた時には笑うしかありませんでしたよ。
きゅらきゅら……
キャタピラの音を響かせながら、埴輪さんがハーフトラックで引っ張ってきたのは、20世紀に実用化されたジェット戦闘機の部品です。
この機体の特徴は構造が単純で、組み立てが簡単という所ですね。
「ピーコック・ブリーダーの設計思想を反映したのです」
『部品の換装で色々出来るようになってるけど、これって本当に大丈夫なの?』
花音が心配するのも分かります。
オリジナルの機体は主にベニヤ版で作られていたので、家具職人が作った戦闘機と揶揄されたそうです。
でも、木製だからこそ美しい機体に仕上がっているのです。
金属部品をほとんど使っていませんから、ステルス性も期待できますね。
「でも、オリジナルのままでは問題があり過ぎなのです」
『戦争しに行く訳ではないから、武器は外すとして、あとは飛行時間ねぇ』
オリジナルのままでは都合が悪いので、いつものように魔改造です。
うっふっふ。魔改造は楽し。同じような時代に、別の国で開発された素材を組み合わせるだけでも、性能は格段に上がるのですからね。
機体の外板をメタライトにして、主翼をより角度の大きな前進翼に。
尾翼もV字にすれば、大幅に部品点数を減らすことが出来るのです。
ジェットエンジンが魔導式なのはデフォなのです。
これで、オリジナルの最大の欠点が解消されるのです。
だって、燃料満タンでも30分しか飛べないんですよ、これ。
迎撃機としてはこれでオッケーですけれど、航続距離は300キロメートル程度では、今回の目的には向かないのです。
でも魔導式ジェットエンジンなら、その欠点も克服できるのです。
「ぴぃ!」
主翼やエンジンを小屋に運び込んだら、組み立て開始です。
機体に主翼やエンジンを背負せると、ほぼ完成というお手軽な機体なのです。
太めのボルトを使っていますが、部品レベルではこれが一番重いかも。
メタルプラスチックで作ったキャノピーは意外と軽いのですよ。
「完成しましたか。さすがに仕事が早いですねぇ」
なでなでなで……
埴輪さん達の器用度は、日々上がっていますけれど、ついに飛行機の組み立てが出来るようになったのです。
う~ん、賢い奴じゃ。愛いやつじゃ。
『でも、この機体の名前が火トカゲって、皮肉ねぇ』
花音は苦笑していますけれど、そうでしょうね。
メタライトだって木材ベースの素材だし、なによりも大戦末期に、護衛戦闘機を従えた大型爆撃機の群れに挑むために生み出されたのですから。
でも、蘇ったザラマンダーは空を飛ぶためだけに生まれたのです。
だから武器は積んでいませんし、装甲も要らないのです。
ちなみに用意したザラマンダー2機は、どちらも複座型です。
『固体ロケットブースターを使って離陸なんて、ずいぶん乱暴じゃない?』
「どうせキャパは余っているのです。それに着陸用にも使えますよ」
このあたりはソンブレロ星雲ものの飛行機を参考にしました。
あの飛行機に使われている着陸用のエンジンは固体ロケットブースターだったのです。燃料をカートリッジ式にすれば、簡単に再利用出来ますし。
ザラマンダーは機体が軽いから、大きなメリットがあるのです。
「おでかけ、するの?」
幼女ちゃんも起きましたね。
私たちはスキンスーツを着るとして、この子にはバイザー付きのヘルメットをかぶってもらいましょうか。
「はい。これをかぶったら、後ろの席に乗ってくださいね」
身体をハーネスで固定して、私は操縦席に身体を滑りこませて。
花音の方も準備は出来たようですね。
では、空の旅を始めましょう。
第2次世界大戦の末期に、連合国も枢軸国も木製飛行機を作りました。
けっこうよく耳にするのは、イギリス空軍のモスキートですかね。
レシプロエンジンを2基積んだ双発機で、いろいろなバリエーションがあったそうです。
でもって、これは一種のステルス機だったりして。




