昴はどこに?
キャンプ生活も5日目に突入しました。
モダテから来た皆さんは今頃何をしているでしょうか。
「ちまきとかしわ餅で祭りをしているに決まっているじゃない」
「ええと、それって……」
「明日は端午の節句でしょ?」
そう言いながら、テントの中に入ってきたのは花音です。
ちまきとかしわ餅祭りって…… ああ、今日は端午の節句ですか。
去年はかしわ餅を水神様に持って行きましたが、今ひとつでしたね。
同じヤポネスでも、場所によっては食べるものが違っていたのですが、あの頃はよく分かっていませんでしたし。
「でも、インストールされた知識にはあったんでしょ?」
ありましたとも。
水神様の出自が西の都だと知っていれば、ちまきを作ったと思いますよ。
由緒正しいちまきは──もち米とササゲ豆を茅で包んだものを、灰汁で煮たものですね。
茅で巻いたものだから、ちまき。
ヤポネスの料理は、意外とそのまんまのネーミングというのが多いですね。
『分かりやすくて良いじゃない。向こうでは違ってたの?』
料理の名前は色々でしたね。
基本的な食材はブナの実くらいでしたから、料理のバリエーションもそんなに多くはなかったという事もありましたが。もちろんこっちのものとは違って、かなり大きな実をつけますからひとつかふたつでお腹いっぱいになれますよ。
「むぅ…… こっちの方が美味しいのです」
謎の幼女は、米粉に砂糖を混ぜたタイプの方が好みのようですね。
小麦粉とわらび粉をベースにしたものもありますが、要は穀物の粉と甘味を水で練り合わせたものです。あとは蒸すなり煮るなりすれば出来上がり。
そう言えば、ここのところ昴の姿を見かけませんね。
目の前でちまきを食べている謎の幼女と昴が別人だという事は分かっています。
私と昴──アーロイスとは魂魄ベースで繋がっていますからね。
認証システムとして、これ以上のものは無いでしょう。
「そう言えば昴はどうしたのでしょう」
『少なくとも艦内にはいないようだけど…… イズワカに居るんじゃない?』
「それが今ひとつはっきりしなくて… アーロイスも教えてくれないし……」
あの子が長い間、単独行動をするなんて珍しい事もあるものです。
まさに『うちの子に限って…』というか… 反抗期に突入しましたかね。
だとしたら厄介というか、面倒な事になりそうですね。
まあ、すべては昴を見つけてからです。
で、どうなの?
『うーん、地下都市にはいないし、マツハマでも…… ならお城かしら』
つまり、ダンジョンから出てはいないという事ですね。
そうでなければ、セキュリティシステムがカウントするはずです。
でも、よほどの事が無ければそんな事はしないでしょう。
私と一緒でなければ、昴がダンジョンの外に出る事はありません。
「すばるさま?」
敷物の上で寛いでいた幼女が、いきなり動き始めました。
がばっと体を起こすと駆け寄ってきたのです。
単純なクイックムーブのようですが、残像すら残さずに移動するには、かなりのトレーニングが必要なのです。
「どこですかぁ? 出てきてくださいよぉ」
きょろきょろと、あたりを見回しては、肩を落とし。
テントの中を覗き込んでは、肩を落として。
悲しそうな顔をして、私に訴えかけるのですよ。
「すばるさまがいないの」
涙目で訴えられてもねぇ。
「本当に、どこに行ったんでしょうねぇ」
『たぶんイズワカじゃないかしらねぇ』
花音の言う通りなら、イズワカ城にいる事になりますね。
その地下には、手持ちの中で最大の規模を誇るダンジョンがあるのです。
たぶん、そこの事でしょう。
「それにしては変なのです。アーロイスに聞いても大丈夫と言うだけだし」
あの子がダンジョンコアであるように、私はダンジョンマスターなのです。
イズワカのダンジョンでもそれは変わりません。
ならば、昴の居場所は明確に分かりそうなものですが…… 駄目ですね。
今度は昴がいなくなった?




