ナギは落っこちた
手榴弾というのは、ある意味では古典的な兵器です。
特に今回使ったような柄付き手榴弾は戦場の名脇役でありながら、廃れて久しいのです。
柄のないタイプの方が持ち運びが楽だし安上がりに作れるので。
「ロマン兵器にも、それなりのメリットがあるのです」
『今回のように?』
私がいるのは直径10メートル、高さはメートルくらいの空間です。
中心に2メートルくらいのサークルが一段高くなっているのは、ここに『外』の世界と行き来するゲートを発生させるためのもの。
言うまでもなくここはエントランスなのです。亜空間要塞の中にある人員用の転送ホールです。
建物で言えば玄関のようなものだから、こう呼ぶのですけれどね。
結局のところ、テーマパークの入場ゲートがどうなったのかは分かりません。
でも、私がここにいて、ダンジョンのあった空間は私たちの時空間より、わずかに高い次元にある空間だという事は分かっています。
そういう意味で、無事にこっちの時空間に落ちることが出来たようです。
「無事に戻って来ることが出来たのです。結果オーライという事にするのです」
『なぎ、なぎ、遅れてごめん。大丈夫だったかナ?』
ぱたぱたと走り寄ってきたのは昴ではありませんか。
あの時にダンジョンの奥に走り込んでいったのでどうなったのか心配していたのですが、どうやら無事だったようですね。
昴に続いて、花音とラジコン多脚戦車がエントランスに入ってきました。
大きな反重力台車を引っ張っているようですけれど……
『おかえりなさい、ナギ。怪我はしてない? 大丈夫?』
「うん、私は大丈夫ですけれど、お仕置きって…」
昴もダンジョンの中でお仕置きをする案件、って言っていましたけれど。
『あれの事じゃない?』
私を優しく抱きしめたまま身体の方向をくるりと回して。
私たちの視線の先にあるのは、桜色の光を放つスイカほどの珠です。
アーロイスのものとよく似た台座に乗せられていますね。
台車を引いた多脚戦車を従えた昴が近づいていきますけれど……
乗っているのは、特大の石臼… かな?
『なぎを虐めたから、お仕置きするノ』
あの珠には見覚えがあります。 ……どこで見たのでしょう?
「思い出しました。アルーガのダンジョンにあった……」
『そう、あの時のダンジョンコアよぉ』
魔族がアルーガに作った地下司令部は、なりかけのダンジョンでした。
中にはトラップやモンスター… ゴーレムもモンスターで良いですよね?
亀姫様や超七を巻き込んで、一気に制覇しましたけれど。
地下第4層の司令室にあるコンピューターを花音たちが乗っ取って。
その間に私は地下第5層へ突撃。
最深部にはダンジョンコア安置されているのは分かっているのです。
休眠状態から覚醒したダンジョンコアが桜色の光を放ち始める前に、全てが終わっていましたけれど。
「あの時の転送タイミングは見事だったのです」
『ふっ、2度目ですからね』
芝居がかった仕草で髪をかき上げた花音の仕草って…
すごく絵になっているじゃないですか。これが8.5頭身の余裕って奴ですか。
理想のプロポーションなのは認めますけどね。……ちくせう。
「艦内に転送すれば何とかなると思っていたのです。当たりでしたね」
この空間では、魔法のほとんどが無効になるのです。
ここは数学的にしか説明できないような空間なので、物理法則が微妙に違うのかも知れません。
あのダンジョンコアも私との魂魄のつながりを求めてきましたが、案の定うまく行かなかったのですから。昴が花音から奪い取ったメイスで、ダンジョンコアに一発決めたのも大きかったかも。
あれは、どう見ても本気で怒っていましたから。
「それにしても、昴は何をするつもりなのでしょう」
『石臼を持ってきたところで想像が付くでしょ?』
最近は石臼で粉を引くのが上手になってきたと思っていましたが、あの大きな石臼なら納得です。直径1メートル半もある大きな石臼ですから、モーターとギアボックスが付いているのも納得です。
あれですり潰されたなら、大抵のものは粉と化すでしょう。
多脚戦車が石臼を床に降ろすと、無造作にダンジョンコアに近づいていきます。
かなり激しく光が明滅を繰り返していますが、何をするつもりなのでしょう。
あの明滅具合からすると、かなり焦っているような気もするのですけれど。
まさか、ひょっとして……
ひょっとしなくても、泥棒猫は粉砕されるべきなのです。
ナギは昴… アーロイスだけのマスターなのですから。




