田植えの時期がきた
王宮から来たふたりと嶺衣奈ちゃんの衝撃の出会いからしばらく経って。
友里恵ちゃんは、相当なショックを受けたみたい。
でもね、そこしか見ていなかったとは……
「エルフ族の特徴ではあるけれど、バレたら何されるか分からなくてよ?」
「田植えが終わるまでには何とかしておきます」
理沙ちゃんは、神妙な顔をして言うけれど、猶予は10日ほどなのよね。
月末には、田植えが始まるから。この日程がずれ込めば、それだけ収穫も遅れるという事でもあるから。そうすると台風シーズンが、ね。
春の祭礼は豊作祈願の祭りだけど、米作りを始める合図でもあるのよ。
「それで、田んぼに水を入れ始めたんですね」
「今年からは忙しい事になるでしょうね」
なにせ水田に水を入れ始めたら、文字通り時間との競争が始まるのだ。
代掻きをしたら、すぐさま田植えをする必要がある。
収穫量を大きく左右するので、今年の仕事は過酷なものになるだろう。
まともに動くトラクターなど数えるほどしかないのだから。
「重要な部品の大半が合成樹脂製ですからね」
合成樹脂。
別名を石油樹脂ともいう物質の研究は100年ほど前に、天然ゴムの代替品を実用化しれた事から本格化している。産地が限られている天然ゴムは、重要な戦略物資なので代替品の開発が急務だったのだ。
そして、20世紀の文明は、合成ゴムが無かったら成り立たなかっただろう。
たとえば自動車。タイヤが合成ゴムだという事は見ればわかるが、それ以外にも燃料や油、水が関わる部品の全てに合成ゴム製の部品が使われている。
家庭での生活を支えているのも合成ゴムだ。
合成ゴム製のパッキンが無ければ、料理は出来ないし、お風呂にも入れない。
さらに言えば、エアコンの部品は大半が合成樹脂と合成ゴムなのだ……
「それらを作り出す工場の設備も、ね」
「すでに工場は残っていないし、原料だって手に入らないでしょう?」
だから、技術文明の産物は故障しても修理する事すら出来ないのだ。
クアルガには期待していた通りに原子力電池の工場が見つかった。
工場は奇跡的に無傷だったばかりか、設備も何とか動きそうだ。
それに倉庫には材料がたっぷりと残っていた。
たったひとつを除いては。
「まさか核物質が全部ダメになっていたとはねぇ」
「核物質保管庫にはあったのは純粋な鉛だったのよねぇ」
これではトラクターや田植え機となど『文明の利器』は使えない。
そうなると、残された手段は手作業である。
手に肉刺を作りながら鍬をふるって大地を耕して。
額に汗して、田んぼに苗を植えるのだ。
そう。今年の田植えは、まさに人海戦術だ。
機械が使えない今となっては、すべてが人力でこなさなくてはならないのだ。
飢えたくなければ、やるしかない。
「祭礼ではエスター様も大変でしたよねぇ」
「神官長とのOHANASHIが足りなかったのかしらねぇ」
「まさかとは思いますけれど、ご褒美だと思っていませんか?」
……多分、そうかもね。
戦争というのは、カネがかかる割にはリターンなどあって無いようなもの。
去年は建国10周年の節目の年だから国王陛下の僥倖があったけど、今年は僥倖の予定はないし、あっても予算が付かない。
祭礼だけが派手にと言うわけにもいかないでしょう?
ああ、だから十二単程度で済んだのかも。
「お綺麗でしたよ」
「……じゃあ、あなたも着なさいね?」
「ごめんなさいそれだけは勘弁してください」
ふっ、あの衣装は単純に重量があるだけじゃなくてよ。
特に今年のように気温の高い日が続くと、ね。
「……そう言えば、魔族について何か分かりました?」
カズマが倒した魔族のお墓はアノウジに作ったのでしたね。
いくら敵とはいえ、死者に罪はありませんから、きちんと弔うべきなのです。
とはいえ、魔族のことを調べるチャンスでもあったわけで。
「埋葬する前にある程度調べたし、サンプルも取ったわ……」
「それで、何か分かったので?」
理沙が食いつき気味に身体を乗り出したが、まだ分析が終わった訳ではない。
いま分かっている事を話すのは簡単だが、魔族について間違った印象を与えてしまうかもしれない。
「ごめんなさいね。今はまだ、話せないのよ」
魔族は我々とは違う時空間で進化した人類だとしか思えない。
大きな違いは肝臓くらいで、全体的には人類とよく似ている。
遺伝子ベースの互換性もありそうだ、とは……
魔族の正体が別の時空間で進化した人類らしい事が分かってしまいました。
水神様の眷属は爬虫人類ですが、それよりは人類に近い存在なのかも。
父:そろそろ連中の存在を明らかにしたらどうだ?
私:このストーリーで魔族はほとんど出て来ないのです。
父:たしかに、こいつらを出すと設定を詰めるのが面倒だからなぁ。
私:それ以前に、そっちの世界まで書く勇気が湧かないのよぅ。




