森の中も探してみたけど
ハロー、クバツ。
エリントシーカーはオバラム近郊を高度50メートルを飛行中。
文字にすると簡単なように聞こえますけれど、機体を安定させるのは難しいのです。ただでさえエリントシーカーは、センサーやアンテナドームのせいで、空力学的にはどうか、ってシルエットですからねぇ……
「特にこの時期には、突風が怖いですからね」
春一番と言うわけではありませんけれど、西風はタカラ山にぶつかって、乱気流を生み出す事もあるのです。でも、安全のために高度をとれば魔族… というよりもドラゴンに見つかる可能性があるのです。
撃破は簡単ですが、そうなると魔族の警戒網に引っかかりそうだし。
「うわっと……」
空気の塊が、どすんと音がしそうな勢いでぶつかりましたか。
山肌の複雑な地形が乱気流を生み出したのでしょうけど、もうこれは風というよりも空気の塊です。この風が吹いてきたと言う事は、今日の偵察はここまでにした方が良さそうですね。
この高度にだけ生まれる乱気流の発生は、文字通りにランダムなのです。
バランスを崩して墜落する事だってあり得るのです。
それでもしも動力部が爆発でもしたら直径30メートルくらいのクレーターが出来るでしょうし、衝撃波と爆風は半径1キロメートルにあるものを吹き飛ばしてしまうことでしょう。
重力を制御するためには、それほどまでに大量のエネルギーを使うのです。
「そう言えば、このあたりに土地神の社がありましたね」
この乱気流がおさまるまで、着陸してひと休みするのも選択肢のひとつ。
土地神の社があるのは、天鏡海の南側になります。
たしかタテハマでしたか……
「エスター様なら、どうします?」
フライトプランにはありませんから、一応お伺いをたてておかないとね。
ここの土地神は天津神の一柱ですから、対応を間違えると厄介です。
シオカの猫神も土地神ですが、なりたての土地神ですからね。
格の違いは明白です。
「……やめておきなさい。それよりも海に向かってくれる?」
時空震の震源と経過時間から考えて、捜索範囲はタカラ山周辺から海岸のあたりまで広げましたすか。エスター様は範囲が広がったので、ざっくり調べれば良いと言いましたが……。
竜神とコンタクトが出来ればなお良し、というところでしょうかね。
そういう事なら、早々に移動しなくては。
ジーラは機体を大きく旋回させると、海岸に向けて加速を始めた。
森を後にして天鏡海を飛び越えて……
その森の中では、徐々に小さくなるエリントシーカーを見上げる人影があった。
「……行ったか」
「その様でございますな」
超七が率いる妖狐の群れである。彼らの目的は食糧調達だ。土地神の社があるこのあたりの森は、そこに住まう者に豊かな恵みをもたらしてくれる。
その量は普通に生活する分には作物など作らなくとも、充分なほどだ。
「若様。このくらいあれば充分では?」
「そうだな。これでしばらくは持つんじゃねぇか」
ナギは今頃、創造神とかいう神様と会っている事だろう。
創造神ってのは土地神様より、ずっとずっと偉い神様だそうだ。
俺様は会った事がねぇが、亀姫は会ったと言っていたな。
あやうく着替えが必要になったとか言ってたが、あいつが身なりを気にするようなタマかってんだよ。
まあ、そんな事ぁ、どーでもいいってもんだ。
とにかく、ナギに頼まれた探しもんも見つからねぇし。
見つからなかったら、それでも構わないとか言ってたから、この件は終いだ。
それよりも、今は食いモンだ。
ここの山にはこの時期ならではの美味いもんで一杯だからな。
採り過ぎなければ、別に構わないというお墨付きもある。
「わかさま! 山菜が、こんなにたっくさん採れた!」
「すげぇじゃねぇか。よくやったな」
何人か連れてきた子供たちには山菜取りをさせてみた。
キノコは採らねぇように言っておいたから、そっちは大丈夫だろ。
毒のある奴を食った日には、やべぇことになるからな。
「山菜はすぐに茹でるから、こっちに持ってきて頂戴」
「はぁい! わかさま、またね」
いや元気なもんだぜ、子供ってのはよ。
大きなかごを女共の方に運んでいく姿は、大人も顔負けだ。
おかげで助かったが、今年の食糧調達は女子供まで動員する事になるとはな。
俺様のプライドがちょっぴり傷ついちまったぜ。
だがな、そんなモンで腹は膨れねぇからな。
今日の聖典
神は使徒マーフィーに言われた。
何かを探しているならば、その手を止めて休みなさい。
そうすれば、求めているものが見つかることでしょう。
それは、あなたの思い描く場所に存在しないのだから。
マーフィーの福音書より抜粋。




