ある日の森の中
梅の花がすっかり散って。桜の花が咲き始めました。
お肉のストックは、着々と増えています。
目標は毎日のように肉祭りをしても半年はいけるようにする事です。
お米と麦などの穀物は数年分はあります。
入手が簡単な生鮮食料品は何とかしなさいという事ですね、わかります。
あとは鉱物資源ですが、この近辺で手に入るのは銅くらいです。
最低でもステンレスとジュラルミンが欲しいですね。
ステンレスというのは、基本的に鉄とクロムの合金の事です。特徴は錆びにくいという事ですね。そしてジュラルミン。アルミニウムと銅をベースにした軽くて頑丈な合金です。
これから作りたいものの事を考えると、結構な量が必要になります。
根気よく集めるしかありませんね。
「なぎ、なぎ。お外に誰かいるヨ」
「洞窟の外に?」
「そうだヨ」
今度は誰が来たのでしょうね。偵察ロボからの映像を見てみましょう…って、珍しいですね、家老のソルナックさん。おひとり様ですか。
「アーロイス、あれはモズマの里の家老さんですよ。敵ではありません」
「食べちゃだめなノ?」
「やめておきなさい」
あんな所に天幕を張って。こんな所に一人で野営ですか。
偽装のために作った小屋は、まだ見つかっていないようですけれど。
いやいや、見つかったでしょうね。
小屋の場所はドランさん… でしたっけ。物資の集積所にした所です。
街道から小屋まで、簡単な道を作りましから、そこを辿ってきたのでしょう。
「焚火を始めたヨ」
「本気で居座るみたいですね。ちょっと小屋まで行ってきますよ」
スキンスーツを着ると、小屋に転移します。
空間振動ダンパーは最大出力。これで転移の時に生まれる時空震は、水神様でも見破る事が出来ませんよ。実験済みですから間違いないのです。
時間的に食事の準備を始めてもおかしくはありませんね。
囲炉裏に火を入れましょうか。自炊生活の始まりです。
あとは、アンドゥイユが残っているから、軽く焼いて、と。
パンは… ありますね。
しばらくすると、ほとほとと、扉をたたく音が聞こえてきました。
「どちら様ですか?」
スキンスーツの上からポンチョを羽織ると、扉を開けました。
お客さんは、予想通りソルナックさんです。
「なんだ、こんな所に住んでいたのか」
「ソルナックさん? いいんですか、里を留守にして……」
里長と家老の関係は、国王と宰相のそれに似ていますね。王国と里に違いが有るとすれば、それは規模だけです。王都・ドゥーラは2万人もの住人を抱える城塞都市ですけれど、里は数百人ですからね。
「まあ、いいんじゃないか?」
「じゃあ…… 出奔ですか? 出奔したんですね?」
「誰がそーた事するがっ!」
家老様、地が出ていますよ。どうどうどう。
興奮すると血圧上がりますよ?
頭の血管がぷっつんしたら、どーするんですか。
私だってあんな所まで何度も行くのは嫌ですからね。
「机の上に『探さないでください』って、書きおきを残していたりは?」
「だから出奔なんか、していないと言っているだろう」
「……じゃあ、どうしたんです?」
立ち話も難なので居間に案内して、お茶にしましょう。
「静かな所で考えをまとめたい事があるのでね、里の中では何かと賑やか過ぎる」
「私に話して良かったんですか?」
次に私が里に行くまでには何とかなるので、別に構わない、と。そうですか。
で、何があったのですか?
「里を北西に行ったところに『帰らずの森』といわれる場所があるんだが…」
「ふむふむ」
「……ジャアック老の御子息が、そこに挑戦したらしい」
で、なんでそんな名前の森に? なるほど、生還率ゼロですか。
超つよい魔物と戦って、生きて帰れば英雄ですものね。
本人としては腕試しのつもり、という流れですか。
そういう事になったのですね。
イノブタ、食べたかったよぉ。食べたい、食べたい、食べたい。
串焼きで、食べたかったよぉ。食べたい、食べたい、食べたいの。
酢豚、トンテキ、生姜焼き……
じゅるり。




