これは奇蹟ですか?
イズワカ城の天守閣から見る風景というのは……
延々と廃墟が広がっているだけですから、いつ見ても虚しくなるというか。
重駆逐戦車と埴輪さんを惜しみなく投入して、魔物を相手に大規模な市街戦をやりましたからね。
「ここまで壊されていると、思い出もへったくれもないわね」
クラウゼルさんを天守閣にご招待。
彼女は元々こっちの住民… それも領主の一族でしたから、彼女にはその権利があるのです。思い出に残る巨木とかがあるそうで。
そう言えば爺の事も知っていましたね。
背中にかごを背負った爺とは、何度も山を走り回ったとか。
クラウゼルさんって、どこから見ても妙齢の美女としか見えないんですけれど。
いったい、いつごろの…… 子供の頃の話ですか。
ソルナックさんが沢に転げ落ちた時は笑えた… ほほう、そこんとこ詳しく。
へえ、あの腹黒クールに、そんな事が……
「でもねえ……」
美しい思い出の世界に比べて、眼下に広がる風景はちょっと派手ですね。
無事な建物なんか、ほとんどありませんよ。
市街地のすべてが瓦礫の山と化しているのですから。
「もう少し穏やかに戦う事は出来ななかったの?」
「……無茶は言わないでください」
穏やかに戦えと言われても… やれば出来ますよ。
その代わり、今もまだ戦っているでしょうから、ここに来る事は無かったかと。
それ以前に、私がここに着いた時点で市街地の大半は瓦礫の山でした。
後片付けをするにも、どこから手を付けてよいものやら。
だってここは10万人規模の都市の廃墟なんです。
このあたりを全部ダンジョン化する事が出来れば簡単に片付きますけれど……
『そうしたくとも、ナギのレベルが足りないのよねぇ』
「……そこは言わないで?」
花音が来たということは、そろそろおやつタイムですか。
最近は花音もお料理に目覚めたというか、私に対して妙な対抗意識を燃やしているというか。
この前、妹よりも優秀な姉などいないって煽りまくったせいかな。
まあいいや、その辺は。
それより今日のおやつは何かなぁ。わくわく。
「今日は、頑張って鬼まんじゅうを作ってみたのよぉ」
「頑張ったのは自動調理装置でしょ?」
「いーえ、あなたの優秀なお姉さまが、可愛い妹のために手作りしたのぉ」
「……マジデスカ?」
鬼まんじゅうはさつまいもを美味しく食べるために考えられた和菓子なのです。
材料はさつまいもと小麦粉。そして砂糖と塩を少しづつ。
材料を混ぜ合わせたら、食べやすい大きさにまとめて蒸しあげるだけ。
シンプルですが、それだけに作り手の腕前が…… うでまえがあぁあああ!
「あら、美味しいじゃない」
「え?」
あの花音の手作りお菓子が美味しいって?
クラウゼルさん、舌がおかしくなっていませんか?
料理はチリビーンズとトマトスープ意外の料理は、ちょっとヤバイ。
だって彼女はポイズンクッカーなのですから。
あえて言いましょう。
あれは毒です!
「そんな事はないと思うわよ。普通に美味しいけど?」
ねえねえ、クラウゼルさん。フリじゃないですよね。
私は熱湯ギャグ系は苦手なんですけど。
とにかく食べてきなさいって、クラウゼルさんがふたつめを完食したくらいですから大丈夫だと思いたいけれど…
ぱく。
「……おーまい、がぁあーっしゅ!」
『ふふふ、姉より優秀な妹なんかいないのよ?』
「ぐぬぬ… って、おねーちゃん」
重大な疑惑が残っているのですけど?
だってね、昨日あなたが作っていたラーメンのスープ。
今朝見たら、底の方で青白い光の粒がぱちぱち光ってたんですけど。
冷凍庫に入れて半日以上は経っているのに、スープは沸騰寸前だったのは何故でしょうね。
おかげで、せっかくの冷凍マイタケがぜえぇえんぶ、駄目になったのです。
それなのに、鬼まんじゅうが美味しく出来上がるなんて。
妙だと思いませんか?
その日の午後に、ラーメンのスープは鍋ごと廃棄処分になりました。
それも、分子爆弾を使って念入りに。




