北へ帰れ
ここ1か月あまりは、かなりドタバタしましたね。
ナギが用意してくれた石灯籠や埴輪のお陰で何とか乗り切ったけど……
「で、クラウゼルよ。この先はどうするか考えを聞かせてくれんかの」
ジャアック老が聞いてくるのも無理はありません。
今回の侵攻ではモダテの里にも被害が出てしまいました。
まさか市街戦にまでもつれ込むとは思いませんでしたからね。
「里を再建するか、それとも……」
「ナギの提案に乗るか、という所じゃな」
幸いな事に人的な被害は出ませんでした。
回復魔法を封じ込んだ魔石がたくさんありましたからね。
でも、街の建物は半分くらいは駄目になっています。
「里長の私としては、再建をすべきでしょうね」
「模範的な回答じゃな。だが、クラウゼルよ。本音はどうなのかな?」
わかっているでしょう?
私個人としてはナギの提案に乗りたいです。
でも、本当にそれでいいか迷っているんですよ。
人的な被害が出なかったのは、石灯籠のお陰です。
というよりも、石灯籠がいなかったら、被害はこんなものではなかったかも。
「それについては同意、じゃな。今回もナギに助けられたようなものじゃ」
「そうなんですよねぇ……」
王国政府の動向にも疑問があります。
どう善意に解釈しても、彼らはナギを狙っている節がありますからね。
エスター様も、王国政府のやり方に同調なさっているようです。
そうではないとしたら、公務と偽って半病人を送り込んだ説明がつきません。
あの半病人は、レーナと言いましたか。
彼女が来てから商人に化けた工作員の数が急に増えたのも、ナギについて探るような動きが見え始めたのも、すべて同じような時期だから。
彼女は本当に病人だとしたら、囮に使われたのかも知れませんね。
そこまでして、こそこそと嗅ぎ回るような真似をしなくても良いはずです。
ナギの事を知りたいのであれば、堂々と聞きに来ればいいのです。
そんな簡単な事を、なぜしないのか。
なぜ工作員に嗅ぎ回らせているのか。
答えはひとつしかありませんね。
それならば、私たちに出来る事はひとつだけ。
「……これ以上、ドゥーラのヒト族に付き合う理由は無くなったようですね」
「ワシもそう思っておる」
方針決定、ですね。
こんな猫の額ほどの土地に未練などありません。
王国政府にくれてやりましょう。
そして、私たちは──
「お母様、このコンテナはどうします?」
「西側の家庭に振り分けて。ひと家族ごとに1個は回すようにして頂戴。
……家具などは最悪、捨てても構いません」
新たなコンテナが届いたら、さっそく荷物を積み込みなさい。
慌てて怪我などしないように。いいですね?
カロリーナはどこ? 水産物加工場にいる? ならいいわ。
きゅらきゅらきゅら……
「ぴい!」
「埴輪たちが戻ってきましたね。次のコンテナはどうなっていますか?」
彼らがアノウジに巣食った魔族との戦いに気を取られているうちに全てを終わらせなくてはならないの。
ナギが用意してくれたコンテナを使って、モダテの全てを運び出すのよ。
王国政府の誰にも気づかれないように、こっそりとね。
「次の便も支度が整いました!」
「埴輪さん、お願いね」
「ぴ!」
コンテナを乗せた台車をハーフトラックに取り付けて。
鉄道用の自動連結器と同じような構造だから、位置を合わせてドッキングさせるだけでいい。コンテナに台車を固定する装置も似たようなもの。
たとえ台車が横転しても、コンテナが地面に放り出される事は無いはず。
連結器のチェックが終わると、作業員の合図でハーフトラックが静かに動き始めた。キャタピラできゅらきゅらと、軽やかな音を奏でながら。
「ようし、次のコンテナを積むぞう!」
「「おうっ!」」
このコンテナには不思議な性質がある。
重量軽減の魔法が掛かっている痕跡はどこにも無いというのに、ぎっしりと荷物が詰まったコンテナは、子供が押しても動くのだ。
だから注意すべきは、勢いが付きすぎて何かに衝突させないこと。
重さが感じられなくとも、質量が無くなった訳ではない。
慣性の法則はえこひいきをする気はないようだ。
今のようにトラック輸送が発達していなかった時代には、コンテナ輸送が大活躍したそうです。
父:5トンコンテナを積んだトラックが家の前に来てくれてな。
私:それって今のものより小さいのね。
父:国鉄で運んだコンテナは、駅から日通がトラックで運んだのだ。
私:そっかー。だから戸口から戸口まで、なのね。




