猫神、あらわる
深い海の底から浮かび上がるように、ゆっくりと意識が覚醒していく。
うすぼんやりとした明るさを感じながら視界を開けると、ただひたすらに白い空間に横たわっていた。どのくらいの広さがあるのか、わからない。
周囲は静かだった。全くの無音というわけではなかったが。
時折、聞こえる… かこーん、という音は耳障りというわけでもない。
――ここはどこだ?
何かが聞こえた。
それは音楽のようでもあり、そうでもない。
色々な周波帯の音を混ぜ合わせて作り上げたものだ。
それでいて、現代音楽のような不快な音じゃない。
違うな。音じたいは聞こえるが、本命はこっちか。
何者かが、俺の心に話しかけてきたからだ。
『気が付いたようじゃの』
「……?」
ゆっくりと視線をずらすと、横に中性的な顔つきの幼女がしゃがみ込んで、俺をじいっと見下ろしていた。
うん、幼女だな。どう見ても幼女だ。
「んんん…… 夢か……」
『夢ではないわ! 早く目を醒してたもれ』
どかあっ!
「おぶうっ!?」
蹴ったよ、こいつ。
いきなり蹴り飛ばすって、容赦が無いな。
『……目は醒めたかえ』
「おかげさまでね」
ネコっぽい耳が生えているのは愛嬌というやつか。
掛け値なしの美少女と言えばその通りだが、幼女は幼女でしかない。
でっぱりもくびれもふくらみもない。これっぽっちもだ。
ここまでストレートな体型だと、酒瓶の方が愛嬌があるぞ。
『何か失礼な事を考えておるようじゃな?』
「いや、そんな事はない」
『それだけ邪念を垂れ流しておいてよく言えるのぉ』
おっと、思考がダダ洩れになっているってやつか?
つるぺたのくせに小癪な奴だ。
しかしなぁ、ひんむいてヌルヌルの粘液まみれにしても、全然楽しくない。
あれで女の子らしい膨らみでもあれば、少しは可愛げもあるだろうが。
……そう言えば、どうなってるんだ、俺の身体。
うむ、みごとに球体だな。元の姿はこうではなかったような気がする。
視界が広いなのは… というより意識すればどの方向でも見えるじゃないか。
単純な球体というより、もっと別のものになっちまった感がすごいぞ。
とりあえず立ち上がって…… というか、浮きあがったのか。
なんとも不思議な感覚だな。
『そなたがペド野郎予備軍だという事は、よぉく分かったのじゃ。妾に妙な事をすれば、容赦なく滅殺するからのっ』
ぐぬぬ。やっぱり、ぐるぐる巻きにしてヌトヌトにしてやる。
『ふっ、出来もしない事を。この場で見たものが真実とは限らぬのだぞ』
冷笑を浮かべるネコミミ幼女に思念を送り込んでみる。
……? どゆこと?
『よいか? ここは生命あるものは物質として存在できぬ世界での。ここに在るのは魂魄だけじゃ。つまり、そなたが見ているものは、自身がイメージしたもの。
妾が幼女に見えるというのであれば、それはそなたの妄想かも知れぬのぅ』
「あの~、質問いいですか?」
思念波での会話は、考えていることがストレートに伝わるな。
『答える事ができる範囲でなら答えてやろうぞ』
ネコミミ幼女が無い胸を張る。
まあ、そんなに難しい事を聞こうとは思ってないよ。
「ここは何処? あなたは誰?」
『ここは幽冥という世界じゃ。三千世界の中心にほど近い場所であるな』
三千世界というのは、宇宙の果てをも含むこの世の全てといったような意味合いを持った言葉だ。どちらかというと、これ以上無いくらいにとてつもなく大きな世界のイメージを定義するための言葉のはずだが。
夢を見ているわけじゃないんだよな?
ネコミミ幼女 Wwww
あらわる Wwww




