魔法というものは・・・
数日前に行われたアノウジでの戦闘は人類側の圧勝に終わった。
ドゥーラの街の中は、今でもお祭り騒ぎが続いているのだが……
ドゥーラ城の天守閣では国王をはじめ、王国の運営をつかさどる重鎮たちが難しい顔をしていた。
彼らは気が付いてしまったのだ。
人類と魔族の戦いは、新しいフェイズに突入してしまったという事を。
そして、見た目は安泰のように見える人類が、実はがけっぷちに立たされているという事を。
「これが嶺衣奈が作ってくれた人口統計の結果だが、気にならないか?」
「まさか人口ピラミッドまで作ってくれていたとはねぇ……」
深刻な顔をしたアルフォンスが、理沙に手渡したのは数枚のグラフだった。
それは年齢別の人口比率を現わしたもので、人口ピラミッドと呼ばれている。
その内容を年を追うごとに見ると、子供の数が増えているのだが、ある年齢層から上の部分が急に少なくなっているのがわかる。
「つまり、それだけ死んだ人が多いって事なの?」
「そういう事になるな。孝之、原因は分かるだろう?」
もしも嶺衣奈が居なかったら、彼らが手にしているようなデーターは作られる事は無かったかも知れない。それに建国以来、食べていくのが精一杯という状況が続いていたために、このようなデータ分析をする余裕がなかったのだ。
「……魔族が大規模攻勢をかけなかったのも頷けますよ」
「と、いうと?」
「これまでの魔族は比較的小規模な侵攻を繰り返すだけだったのですよ。
何故ならば、それ以上のコトをする必要が無かったから… ですね」
魔族は人類を根絶するために大規模な戦争などする必要が無いと考えたのだ。
むしろ、その必要すら感じなかったのかも知れない。
「つまりは、そういう事になるね」
もはや、人類は数万人程度しか残ってはいないのだ。
それならば、時間をかけて人類社会を支える年齢層を削るだけでいい。
大規模攻勢をかけなくとも、文明を継承できなくなった人類は自滅する……
それこそが魔族の狙いなのだろう。
だが、とアルフォンスは言う。
その状況をひっくり返すような事が起きたとしたら、それは何なのかと。
「さすがに分かりませんね」
「そうねえ、情報が足りなすぎるわ」
それはアルフォンスだけではない、孝之や理沙にしても同じことが言える。
だから、ここから先は全てが推測の域を出ない……
「我々と連中の軍事的なバランスが崩れたか、魔族側で政変が起きたのか……」
ここ最近に起きた魔族の侵攻は、今までのものとは違い過ぎている。
少なくとも、何らかの方針転換があったと思わざるを得ないのだ。
「攻撃のウエイトがモダテからモズマにシフトしたのも、その結果かな?」
「そう、言われれば、そうかも……」
もしも先日出現した5体のアケパロイは捨て駒だとしたら?
あの時はエスターが撃退したものの、あの戦闘が単なる威力偵察だとしたら。
5体のアケパロイとエスター達の戦闘内容が魔族に伝わったならば、今回の大掛かりな侵攻の理由も分かる。
エスターが投入したサイクロンは魔族側にとっても脅威だと判断したのだ。
充分に数がそろえば、間違いなく人類側は反転攻勢に転ずるだろうと。
「その前に、一気に叩き潰そうとしたのかも知れませんよ」
孝之の言った事は、あくまでも推論の域は超えていないものの、十分に考えられる内容だった。推論の正確性は別として、当座はクアルガとアノウジから魔族を駆逐できた今は、それなりにする事がある。
「よぉ、遅れて済まねぇな」
カズマと友里恵が部屋に入ってきたのは、そんな時のことだった。
「もう、身体は良いのかな?」
「本当なら、まだ安静にしておきたい。当分の間、食事はレバペだけ」
友里恵は、口を開きかけたカズマを遮った。
「あの時のカズマは、頸椎をねん挫していたし、左の肺には穴が開いていた」
他にも、いくつかの盲管銃創や粉砕骨折があったという。
重要な血管にダメージが無かったから、カズマはここに立っている。
でも21世紀の医療技術では、今でも集中治療室で生死の境をさまよっているはず。それ以前に意識が戻っているどうかも怪しい所だ。
まったく、魔法というものは…… 便利なものだ。
しぶとく生き残ったカズマ君ですが。
私:レバーペーストは神! ご飯とお野菜たっぷりだから味は悪くないでしょ?
父:……どうしてこうなった?
私:おとーさんが親指を折って、お箸が使えないからですが何か?
父:ううううう。固形物が食べたい。酒飲みたい……




