しゅっぱぁつ!
戦争の始まり方は、大きく分けて2種類あります。
それは、防御側の部隊が攻撃側の部隊を認識しているか否か。
ダンジョンを攻略しようとすれば、どっちのパターンでしょうね。
「ダンジョンコアは休眠状態だと言っていたわねぇ」
「そうですよ。見つかったら、簡単に取り込まれますけれどね」
パーティメンバーは4人です。
水神様と昴と一緒にイズワカ城でお留守番です。
ふっ、でれっでれに孫馬鹿をしていればいいのです。
スキンスーツを装備した私と花音はデフォとして、あと2人。
亀姫様と、もうひとりですけれど……
「亀姫を誘って、吾を誘わぬというのは酷くないか?」
「そう言われてもねぇ……」
花音が眉をひそめるのも仕方が無いと思うのです。
今まで正体のはっきりしなかったイーリンの妖怪さんの親玉なのです。
そんな大物が、予告もなくひょっこりと人間の姿で現れてましたからね。
アルーガを簡単に制圧出来たので油断していましたか。
「どうやら、これが狐妖怪の親玉だと思うのじゃ」
「思うって…… 何度も顔を合わせてるじゃねーかよ!」
「そなたのような子供なんぞ、妾は知らぬ」
笑っちゃダメだ、笑っちゃダメだ、笑っちゃ……
「ぷっ……」
短い会話でしたけれど、これで亀姫様と狐妖怪の間柄の想像が付きました。
……そういう事とはねぇ。
暖かく見守ろうと思っていたのですけれど、向こうの方から近づいて……
いきなり背後から抱きつくと、耳元に囁きかけました。
うわ、いつの間に?
残像も見えませんでしたよ?
「オメー、両方『ついてる』だろ?」
「なっ!?」
……狐妖怪の一言で、臨戦モードのスイッチが入りました。
隙をついてこいつを振り払っわないと……
「……図星かぁ、じゃあ、おめーがジジイの言ってた類友だな」
類友って? この狐妖怪が私と同類?
ご冗談。私には狐妖怪の知り合いなんて、いませんよ。
それに私はスキンスーツを装備しているから、ヒト族の美少女にしか見えない筈なのです。それなのに、私の事を同類だと言い切りましたね。
まさかこいつ……
「ジジイって?」
「土地神のジジイだよ。
爺はこのあたりも治めていたのですか。
思ったよりも広いのですね、守備範囲。
で、この狐妖怪とも交流があったと……
まあ、念のために聞いておきますか。
「嫁にも婿にも行きませんからね」
「そりゃ、残ねあぶぉうっ!」
「こんの駄犬はぁ! いつまでナギに抱きついておるのじゃ」
狐妖怪のわき腹に、亀姫様の右フックが突き刺さりましたが……
ちょっと拙くないですか?
位置的にも角度的にも。
並の人間なら、腎臓と肝臓が破裂していますよ。
「いつまで死んだふりを続けるつもりかえ?」
彼女はあわてて駆け寄ろうとした私を制すると、地面に倒れている狐妖怪に声をかけたではありませんか。
冗談抜きでヤバくないですか?
えっ? このくらいで死ぬ程度なら大妖じゃないって……
「相変わらず、口より先に手が出るヤツだな」
「ふん、妾のナギに手を出そうとしたからじゃ」
仕方がありませんね。
銅鐸さん、残念ですけれど出番はここまでです。
この狐妖怪を連れていく事にしますから、あとはお願いね。
「じゃれているなら、置いて行きますよ」
さあ、ダンジョン攻略戦の始まりなのです。
最初の疑問については、腹を決めました。
洞窟に偽装された入り口付近には、生命反応がありません。
という事は、ダンジョンはまだ休眠状態に入っているのです。
それならば……
この狐妖怪が、このサイクルで登場する最後の大物です。
亀姫と同じ大妖クラスですから、ほとんど亜神かも。




