海の幸と言いますが
スキル星人の子孫たちは、何と言いますか。
種族としての記憶とかを蓄えた部分は、長期間の放浪の結果、宇宙放射線で壊れてしまった、と言うわけですか。
その後の環境適応の結果、そのあたりは完全に削除されて今に至る、と。
「という事で、イカタコは食べても問題にならないのですね?」
「クラーケンあたりは、いささか大きく育ち過ぎたけれどね」
パラレルワールドの相似性とでも言うのでしょうか。
魔族のいる時空間では、イカは巨大な水棲怪物になっています。
地球でも、伝説っぽいものがありますし、戦闘記録もあった筈では。
へえ、異界との門なんて、オカルト話だと思っていましたよ。
「こっちに迷い込んで来たクラーケンについては、たしかアナロックスという人が記録を残していましたよね」
「19世紀の末に建造された深海潜水艦が出逢っちゃった一件ね?」
潜水艦オウムガイ号は、全長70メートル、最大直径8メートルと言いますからアジサイ号をさらに大きくしたような感じですか。
潜水したまま、スクリューだけで50ノットも出せるとは、大したものです。
私ではちょっと再現出来そうにありませんね。
「それはいいとして、しばらく出てくる事は出来ないのよ」
「当たり前でしょう? あれは拙いですよ」
ヘルマはあのお椀の宇宙船を作る時に、やらかしてしまったのです。
かつて、金漆という名の超高級な漆がありました。
漆の生産量が極端に少なかった事もあって、1000年ほど前に廃れてしまいましたけれど、お椀の宇宙船に使われていた漆は、その金漆の上位種だったそうです。
それも、ラックヴァルの完成を待たずに絶滅してしまったとか。
「乱獲したつもりは無かったのですけれどねぇ……」
「結局のところ絶滅させてしまってので、証拠隠滅のつもりで新たに創造したのが金漆だった訳ですよね」
証拠までばっちり揃ってしまえば、これはもう有罪です。
神族が理由もなくひとつの種を絶滅させたのです。
それは法的にではなく、道義的に見てどうなのか、という問題です。
運の悪い事に、あの植物種は創造神様のお気に入りベストにランクインしていましたから。謹慎処分で済んだのは、もうけものだと思うのです。
下手に禁固刑でも喰らったら、次元断層から出てくる事は出来ませんよ?
「でも刑期1000年は、やっぱり長いわぁ」
「時々は差し入れ持って、面会に行ってあげますから」
「ううううう、すまないねぇ……」
という、下手な三文芝居を演じたヘルマは、オジマの森にある帰らずの森に引きこもる事になりました。というか、あそこが謹慎部屋ですからね。
それでも『裏口』なんてモノを用意してくれるなんて、創造神様も優しい所があるものです。
そして、ヘルマが来なくなれば、この部屋は不要になりますけど、残しておく事にします。せっかく作ったのに壊すのはもったいないし、多分ここは花音の研究室になるでしょうから。
あとは……
爺が言っていたダンジョンの攻略です。
「う~む、これがなくてはのう……」
「何をやっているのですか、亀姫様」
色々と道具を前にして悩んでいるようですけれど。
基本的には、自分の装備は自分で背負うものですから、それで悩んでいるようですけれど。
遠足や修学旅行に行くわけではありませんから、持っていくモノは必要最低限にとどめた方が良いですよ。
要らないと思ったものは、ばっさりと切り捨てましょう。
とにかく軽薄短小を心掛けないと。ここは心を鬼にして断捨離をするのです。
「そう言えばナギは、例の爆弾は持っていかないのかえ?」
「爆弾も対物ライフルも持って行かないつもりですよ?」
不思議そうな顔をしていますね。
洞窟タイプのダンジョン攻略に爆発物を持っていく人なんか、普通はいないと思いますけれどねぇ。なんでだって言われても……
「ちょっと実験をしましょうか」
亀姫様とふたり、近くの洞窟に行くことにしました。
ここは洞窟というよりも、鉱山跡地ですかね。昔は水晶が出たようですけれど。
「使わなくなった鉱山で何をするつもりじゃ?」
「これを持って、奥まで行ってくださいな」
渡したのは、片手で持てる程度の小樽です。中身は手榴弾が1発だけ。
一般に手榴弾と言えば、破片手榴弾の事を指すようですね。爆発すると、あたりに破片を撒き散らす厄介なアレです。
でも、樽の中に入れたのは、コンカッションという『破片を撒き散らさない』タイプのモノなのです。
だから、亀姫様なら大丈夫ですよ。
たぶん、ですけれどね……
潜水艦の大きさについてピンと来ないという話があったので。
身近にあるモノで例える事にしますね。
路線バスは全長11メートルくらい、幅は2メートル半だそうですから……
アジサイ号はバス4台を縦に並べた感じ。幅は2台分よりちょっと広い感じですかね。そしてオウムガイ号は7台分、幅は3台分くらい。
こうしてみると船って、とっても大きいですねぇ……




