新しい年が、やってきた
暗闇が、燃え盛るかがり火によって追い払われて。
焚き火と大甕に入ったお酒は、冬の寒さを追い払う。
時間は12月31日の… そろそろ午後11時45分になります。
「そろそろ、今年も終わりよのう……」
「慌ただしい1年でしたけどね」
ナギが地球に来て、私が再起動してからの1年間。
私にとっては、現役時代には味わうことが出来なかったような、刺激的な1年だったと思うのよね。
まさか妖怪たちと誼を深める事になるなんて、ねえ?
「と、いうわけで、ちょっとした思い付きなのですが……」
きゅらきゅらきゅら……
「なっ、なんじゃあぁあ?」
さすがの亀姫様も、これにはびっくりしていますね。
まさか門松を運ぶための車両を、実際に作ってしまったとは思わなかったようですね。ふっふっふ。この装甲兵員輸送車、見事な出来栄えだと思いません?
埴輪が乗るハーフトラックやナギの軽戦車と違って、かなりの大物ですよ。
運転しているのはナギで、昴は… ああ、いましたね。
ちゃんと兵員室の前方にビルトインされた機関銃の後ろにいます。
「いかがです? 砂漠でも走り回れる軍用ハーフトラックですよ」
車体の大きさは4トントラックくらいはあります。
今までの中で一番大きな部類になりますね。これより大きなものというと、私たちが使う霞の輿と、潜水艦アジサイ号になりますかね。
でも、彼らはそれを見た事はないし。
「……また物騒なモノを作ったものよの」
「そうですか? ただの装甲兵員輸送車じゃないですか」
年越し行事の最中に登場させるのは、ちょっとアレでしたかね。
門松を運ぶのが目的なのでクレーンが付いていますけれど、これはれっきとした軍用車両です。
突撃橋こそ積んでいませんけれど、工兵部隊用の戦闘工兵車なんです。
さあ、ここからが本番ですからね。
昴は機関銃をくるりと回すと、慎重に狙いをつけると引き金を引いた。
どんっ… という発砲音に続いて、ごぉおおぉぉぉん…… という音色が、あたりに響き渡った。
「なっ、なんと?」
イズワカ城に残されている梵鐘は、昔から時報代わりに慣らされていた超特大の梵鐘です。大入道さんが3人は入れそうですね。
撞木もありましたけど、普通に叩いたって音は出せそうにありませんから。
「大晦日に除夜の鐘はつきものでしょう?」
機関銃は連射しか出来ないようなイメージがありますが、決してそんな事は無いのです。機関部の構造次第では単射だって出来るのです。
「それにしても、のぅ… 鐘を鳴らすなら、皆に手伝わせたものを」
「これはこれで風情でしょう?」
……と、いう事がありまして。
もちろん規定通りの108回鳴らしましたとも。
その様子を見ていた亀姫は呆れていましたが、妖怪さん達には大ウケだったのは言うまでもありません。
そんなこんなで歳神様を無事に迎え、新たな1年が始まりました。
今年の干支は甲寅になるそうです。
語感からすると、なんとなく強そうというか、威勢が良さそうですね。
「うむむむ……」
歳神様の祭壇を前にして、亀姫が祈りを捧げています。
龍脈のエネルギーまで使って何をしているのでしょうね。
「今年の運勢さ占ってぐれでるんだ」
ありがと、貉さん。さすがに詳しいですね。
これが正月の儀式だそうですが、なんとなく神託を受けるような感じもします。
あ、終わったようですね。姫は祭壇から向き直ると、占いの結果を話してくれました。
「今年は、運気が上がると出た。安心して励むがよかろう」
亀姫の占術の結果は吉… という所でしょうかね。運勢とは振り子のようなものです。常に大吉から大凶へ、大凶から大吉へと揺れ動いているのです。
だから、吉といっても色々なものがありますけれど、今年の場合は大吉に向かう途中にある吉… という解釈になりますか。
「おおむね合っている。あとは我らに宛てたモノではなさそうであるが……」
「まだ続きがあるのですか?」
「うむ。何かを為そうとすれば、実力以上の結果を得ることが出来よう。されど最悪の結果を招く事も心せよ…と出たのでな」
どうやら平穏とは無縁の1年になりそうです。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ




