賭け事をしましょう
あの小娘、ナギと言ったか。
劣等種族の分際で、なんという無礼な物言いをするのじゃ!
年寄りに早朝の冷えはきついだろう、とな? そこまで老いてはおらぬわ!
それにだな、我らは里の実質的な重鎮たる長老衆じゃぞ!
特にこの儂、ジャスティス・ジャアックは、このモズマの里でも旧くから在る尊きジャアック家の当主なのだ!
「ジャアック老、決着は演習場でつければよろしいでしょう」
「…うむ、そうであったな」
ザーラック武士団長も何か思うところがあるのであろう。
嬉々として演習場を開放しおったわい。
「少し落ち着きましょうか。高貴なるエルフ族が、ヒト族ごときに見苦しい姿は見せられませんぞ?」
「ふん、大丈夫じゃ。儂はいつだって冷静じゃ」
「それは重畳。では演習場に行きましょうか」
ザーラックに付き添われて、ぞろぞろと部屋を出てゆく長老衆を見ながら、ため息をつく里長の姿があった。
「ナギ、大丈夫なの? あんな大見得を切って。彼らは伊達に齢を重ねてきたわけじゃないのよ?」
「旧王国時代の最大にして最後の戦争の生き残り…… でしたか」
「そうよ。ああ見えても相当の猛者なのよ」
「大丈夫ですよ、お母様。この勝負、ナギの圧勝ですから」
カロリーナは屈託のない笑顔で言い切った。
たしかに、あの子の予感はよく当たるわよ。
まるで結末を知っているかのように、ね。
でも不安になるじゃない。
「ナギが負けたらお母様は里長から引退、私たちも平民になります。でも、それは向こうも同じでしょう?」
「確かに、万が一にも負ける事があれば隠居でも何でもしてやるとは言ったけど」
「私の見立ても、カロリーナと同じです。ナギに負けはありませんよ」
何なのよ、この自信は。
ユーディはそう言うけれど、状況は圧倒的に不利なのよ?
あの席上でルールの話し合いをしたけれど……
長老衆は全ての装備を使っても構わない。あくまでもこれは実戦だ、とも。
ナギが勝ったら、長老衆は全員隠居。負ければ私が隠居。
「せっかくの可愛い顔に傷が付いたらかわいそう、せめて何か…」
最後にカロリーナが言った一言には、その場の全員が納得したけど。
たしかに可愛いわね、ナギは。それでも、あれでは、まるで……
死にに行くようなものじゃない!
「まあ、大丈夫ではないでしょうかねぇ」
「ソルナック、どうして… そう思えるの?」
長らく家老という要職を勤めている彼の状況分析は正確だ。
子供の頃からの付き合いだけど、あの頃はいろいろと「やんちゃ」をしたもの。
彼が采配をすれば、大抵の事はやりたい放題だったわね……
「ヒト族は、我らエルフのように高い魔力も、長い寿命も持っていない。もちろん魔法の使い方も、はっきり言って下手だね」
「……駄目じゃない」
彼はニヤリと笑うと、話を続けた。
「でもね、ヒト族の恐ろしい所は数だよ。その上で巧妙な作戦と、確実な連携で勝ちを拾う。ヤストの会戦で彼らが何をしたのか、知らないわけじゃないだろ」
「まあ、ね……」
それは人類が生き残るためにヤスト盆地で行った、魔物の群れとの一大決戦だ。
ヒト族を主力とした中央軍は、たしかに強かったけど。
「でもね、ナギは長老衆を相手に一人で戦うと言ったんだろう? その上で勝つと言い切ったんだよ」
ソルナックに促されて、私たちも演習場に急ぐことにした。
すでに大勢の見物人が集まっている。
いったい誰が触れて回ったものかしらね。
「だから、勝つ方法を見つけたんだろう。
それなら、ジジイ共が束になってかかってもナギには勝てないだろうよ」
ありがとう、ソルナック。でもね……
もっとマシな事を言いなさいよ。
ふっふっふー
喧嘩です。喧嘩が始まってしまいましたよおぉぉぉ(笑)




