エルフの里を束ねるもの
目の前の椅子に座っているのは、水神様の祠にいたヒト族。
名前はナギ=カザマ。
性別は…… 分からないわね。水干を着ているから男子、とは言えないし。
両手を痛めているからと、長手袋をしているのも判断を難しくしているわ。
それに見た目はヒト族だけど、実際には何者かわからない。
どう見てもエルフじゃない。あの体格だとドワーフ… でもないわね。
無頭鬼を倒した実力からすれば、考えられるのは龍人なんだけど。
あれは西の大陸にある山脈に居を構えて滅多に出て来ることはないし。
まあいいでしょ。
時刻はちょうど昼食時。
丁度良いから、食事をしながら話をしましょう。
たかが食事、されど食事。
その時々の所作を見るだけでも、人となりが垣間見えるというものなの。
「時間も時間だから、一緒に食べながら話でもない? 午後からはちょっと面倒な打ち合わせがあるものだから……」
「ありがとうございます。わぁ、とても美味しそう……」
今日のおかずは、しいたけとかんぴょうの旨煮とヤマメの塩焼き。
香のものは白菜と人参の浅漬け。
料理人もなかなか挑戦的な献立を… って、きれいに食べてるじゃないの。
ヤマメがきれいに骨だけになってるじゃない。なかなかやるわね。
……と、まあ、食事も終わった事だし。
聞きたい事は早めに聞いてしまうに限るわ。
目の前にある問題を先送りするは一番の悪手だと思ってるから。
直球勝負といきましょう。最初の質問はこれよっ!
「ナギ様は… なぜヒト族の姿をとられたのです?
最低でもエルフ族の姿であれば、混乱は無かったでしょうに」
おや? という顔をしてるわね。
私だって、このくらいの芸当は出来るのよ。
「……見破られていましたか。さすがクラウゼル様ですね。あ、私には「様」は付けなくても結構ですよ。そんな御大層な身分ではありませんから」
「水神様が神託を下してまで引き合わせたのよ。並みの筈がないじゃない?」
「……ふふっ、違いないですね」
そこは否定しないのね?
それにしても、ナギ… でしたね。
魔力量はヒト族のレベルじゃないどころか、エルフをも軽く超えているわね。
私達エルフは、そうやって人を見分ける事もあるから。
「エルフ族は全員がそれを?」
「普通のエルフは色とパターンくらいしか判別できないわ。私たちは特別」
「それはよかった。余計な手間が省けますね」
手間、ねぇ。あなたが言うと意味深なのよね。
何がしたいのかなあ?
「昔から言いませんか? 『留まる水は汲み出すもの』って」
ナギは一瞬だけ昏い笑顔を見せた。
ふぅん、そういう事なのね。やぁね、あなたって人は。……怖い、怖い。
次の瞬間には明るい笑顔を浮かべると、言葉をつないだ。
「それに、ですね……」
やれ誰に居ている、こいつの遠い親戚筋だ、といった感じに、本人が知らない間に友達やら親戚が増えるのは、よくある事でしょう、って?
そのくらいなら、この辺りでは数が多い種族の姿をとった方が無難、と。
出来れば目立ちたくない?
うそでしょ? それは無理な注文ってものよ。
あなたの場合は、その魔力量だけで騒ぎになりかねないの。わかる?
わかる人にはわかっちゃうし、どこでボロが出るか分からないわよ。
「今日は、この屋敷に泊っていってね。あとで娘たちにも会ってもらうから」
「感謝します。ああ、時間に余裕があれば町を散策しても?」
「今日のところは止めておいた方が無難だと思うわよ」
だってね、里にヒト族が現れるのはとても珍しい事なのよ。
ささいな事でトラブルが起きるかも知れないでしょう?
「じゃあ、部屋を変えましょうか」
そう言うと、私たちは席を立った。
明日は大晦日ですね。
というわけで、明日は2話投稿の予定。
投稿のタイミングは……
本編は通常通り。幕間(番外編)は18時の予定です。




