とある神界の空想科学
創造神様からもらったデータを読んでみました。
ティーガ星系とソル系を結ぶ次元通路… ですか。
距離は12.5光年? 宇宙的な視点からすれば目と鼻の先ですね。
それでも、星系内を満足に移動できない種族にしては、頑張ったものです。
どのあたりに有るのでしょう?
「メサイア星雲の中にある小さな恒星系であるな。こ奴は、ティーガ星系から次元通路を使ってソル系に移動中だったようじゃ」
……ちょっと待ってください。
気になる事を、さらりと仰いましたね、創造神様?
創造神様の何気ない一言ですが、ひっかかりを感じました。
どのあたり?
……古い時代?
いえ、違います。
……どこに?
それだ!
それは、どこにいた、と?
「……創造神様、いま何と?」
「ふたつの次元宇宙が繋がりかかったころじゃ。創ってから130億年か140億年か… そのあたりの出来事じゃ。まあ、最初の頃の出来事であるな」
そこじゃありません。
「いえ、その前です。メサイア星雲と… 仰いませんでしたか?」
「そうじゃ。この者の目的地はソル系第4惑星・火星じゃ」
「……なんとなく聞き覚えがあるんですけど… 第4惑星ですか?」
それは、遠い時間の彼方に封じられてしまった、とても大切な記憶。
メサイア星雲人の魂魄すべてが一体となり、超越生命体として生み出された筈の私の心を、魂魄の奥底をかき乱すもの。
「ほっほ、気になるかの?」
「とっても気になります」
「ふむ、食後のデザートはファール―デが……」
ファール―デですか。
そんなもので良ければ、瞬殺です。
どうせリクエストがあるだろうと思って、昨日のうちに作りおきをストレージに保管しておきましたが。案の定でしたね。
今回は奮発してピスタチオも添えておきましょう。
「お、おぉおお……」
これは砂漠の国で生み出された世界最古の冷たいスイーツのひとつですね。
コーンスターチや米の粉で作った極細麺に、シャーベット状のローズシロップをかけたものです。麺はベトナムのフォーを作る要領で押し出し成型です。
甘味の付け方にコツがあるのですが、私にとっては些細な事です。
「……今回はピスタチオを添えてみました。シャルバートもありますが?」
こちらは、単純に冷たく冷やしたフレッシュジュース。これがシャーベットの原型なのですけど、あまり知られていません。砂漠の国と言っても、標高の高い山があれば氷室がありますからね。
冷たいスイーツが発展する下地は充分にそろっていたわけです。
「いや、これを心ゆくまで堪能できれば、それでよい」
創造神様は、どんなお料理も幸せそうに召し上がります。
作っている私としては、冥利に尽きるというところですね。
なんでも、ご自身が創造した料理は、すべてチキン味になってしまうとか。
それはそれで一流の味わいがあるのですが。
たしかにケーキやプリンがチキン味だと引けますね。
ファールーデを堪能して、ヘブン状態になっている創造神様もなかなか。
その風景だけを切り出すと、ヤバめな解釈ができますが放っておきましょう。
それよりも、いいかげんヘブン状態から醒めて欲しいものです。
「あの…創造神様?」
「……かの者がどこに行こうとしていたか、知りたいのじゃろう?」
その時、背筋にぞくりとした何かが走り抜けた。
私の本能が警告を発する。
……神の言葉を、聞いてはいけない。
だがしかし。
本能は別の警告をささやく。
……神の言葉を、聞き逃してはいけない、と。
世界最古の冷たいスイーツは、中近東で生まれたとか。
それにしても、今回のお話は……
空想科学といいますか、お料理といいますか……




