妹と姉
私はカロリーネ。
モダテの里の里長の娘として、2の姫と呼ばれてる。
昨日は本当に死ぬかと思うような目にあいながらも、なんとか帰ってきた。
神託が下りて、オノール湖に祀られている水神様の祠まで行く事になったのよ。
姉様は豊穣の儀式で、神殿にお籠り中だったから、私しか居なかったのね。
そうじゃなかったら、書庫の中で至福の時を過ごしていたはずなのに。
ま、神託が下されたんじゃ、行くっきゃないじゃない。
母様は母様で、里長じゃなければ、私が行きたかったとか言っていた。
神託だけでも大騒ぎなのに、加えてエスター様からのお手紙だもん。
舞い上がるな、って言う方が酷かな。
でも結果は散々。
――万難を排して、我が祠に来たれ。
この神託に従って、祠に向かった私たちは、万難を排しきれなかったの。
過剰なまでの戦力を護衛につけてもらった上で、祠に向かったけど。
待ち受けていたのは無頭鬼に率いられたゴブリンの集団。
あの襲撃は間違いなく、あいつが司令塔になっていたはずよ。
「カロリーネ様、ユーディ様がおいでになりましたけど、いかが致しましょう?
今日の姫様は気分がすぐれぬご様子。お断りした方が?」
「いいわ、入ってもらってちょうだい」
今日のユーディ姉様は、シンプルなワンピース姿だ。
左手には大きな紙袋を下げている。あ、買い物帰りに寄ったんだ。
「しばらく妹と二人きりで話したい事があるの。人払いをお願いできる?」
「かしこまりました」
ユーディ姉様は、1の姫で、次期里長と言われているほどの人。
髪は栗色で、瞳はエメラルドグリーン。
肌は白雪のように美しく、陶器のように滑らか。
そして過剰なまでにメリハリがある体つきをしている。
ちなみに、薙刀術の達人。
そして猫を飼っている。とっても大きくて丈夫なものを。
それが、姉という人物を現わしている全ての事だ。
そんな姉がいるから、私は学問と芸術に時間を割く日々を過ごす事ができた。
次女というのは暇だからね。口の悪い言い方をすれば、姉のスペア。
何事も無ければ余剰人材なのだから。
いずれ家を離れる時のために、私はプーリストという職業を目指した。
エルフの本質は戦う事ではなく、守るものなのだから。
戦う事がいけないという訳ではない。
里にも武士団がいるし、彼らの役割は非常に重要なもの。
エルフ武士団の存在意義は、やはり守る事なのだから……
でもね。武士団の存在が民から歓迎される事態というのは、里が理不尽な暴力にさらされた時や、大きな災害が起きて救援に赴く時など、民が困窮し里が混乱に直面しているときなの。
言葉を換えれば、武士団が日陰者である時こそ、里に住む民は幸せなのよ。
それなのに、彼らは万が一の出来事のために武芸を磨き、精進している。
私は彼らと目指す方向は違っていても、かくありたいと思う。
「カロリーネ、あなた寝てないでしょう。目の周りが黒くなっていて……」
「姉様?」
ふたりきりになった部屋の中で、口元をひくひくとさせていた姉様は……
大きな口を開けて笑い転げた。
「ぷ、くくくく…… あなた、その顔はこいつそっくり!」
紙袋から取り出したぬいぐるみを私に押し付けると、再び笑い始めた。
巷で人気のすみっこタヌたんじゃないの。
たしかにタヌキの目の周りは黒いけどさぁ……
私はお役目を果たせずに凹んでいるっていうのに、なんなのよっ。
なんで姉様は能天気でいられるの?
「ああ、それなら良いのよ。期限を切られているわけじゃないでしょ?」
「まあそうだけど」
「なら、もう一度チャレンジすればいいじゃない」
姉様が時々浮かべるその表情は…… まさか厄介ごとを丸投げする気?
せめて相談に乗る気とかない? マジ困ってるんですけど。
「タヌたんあげるから、がんばって?」
……ひどい姉だ。
明日は御用納めの日ですね。
さあ、大掃除の始まりです。
先月のうちに換気扇のお掃除はしてありますから、今年はちょっと楽になるかも?




