故郷は地球
ふう、まさに緊張の一瞬でした。
まさか偵察の最中に、人間が魔物の襲撃を受けている場面を見ちゃうとは。
戦術的に考えるなら見殺しにするのが正しいんですけど、それは人道的に見てどうなんでしょ? って事にもなるので。
とりあえず助ける事にしました。
スキンスーツの性能も確かめておきたかった、というのもありますよ?
結果から見れば、スーツの性能に問題はないという事で。
そうそう。ヘルマの使っていた魔法も、ちゃんと使えました。
もちろん私好みにアレンジしてありますけどね。
魔法を発動させる場合、どこに魔力を集めるか、どのように展開するのかというのは、ちゃんと公式があるのです。
それにしても魔物相手の初めての交戦で、私も興奮していたんでしょうね。
色々とテンパっていたので、何も言わないであの場所を離れましたけど。
とにかく着陸しましょうか。
ええと… あの湖のあたりにしましょう……
『これ、そこな異形よ』
「へっ?」
着陸した途端に後ろから声をかけられたのには驚きましたけど、振り向いたらなかなかの男前が立っていました。さっきの地球人と反応が違うけどまあいいかな。
データ収集だけはしておきましょ。パッシヴにしておけば問題は無いと思う。
てっきり攻撃されるものと思っていたのですが……
『そなたの事である。もそっと覇気を抑さえ給え』
「私…… ですか?」
『他に誰ぞおるかの』
なんか調子が狂いますね。
まあいいでしょう。
覇気… ねぇ。ああ、そうか。振動吸収ダンパーの出力を調整しましょう。
このあたりは思考制御ですがヘルマの不思議テクノロジーなので、気にしていたら、夜しか眠れなくなってしまいます。
「……こんなものでは?」
『それでよい。普通の人間がさっきのような覇気を受ければ動けなくなるぞよ』
そういうものですか。
「ところで……」
『何かな?』
「こんな辺鄙な場所に暮らすのって、大変じゃありませんか?」
上空から見たけれど、ここは近くの集落から直線距離で20キロは離れている。
この周辺には、神社というには小さめの祠があるだけで、他には何もない。
はっきり言って、このあたりには人が生活した痕跡が一切見られないのです。
『ほほほ。鄙びた場所にはそれなりの良さがある物じゃ。それに、麿はそこな祠に祀られておる身であるからの』
「祀られている…… つまりは神様?」
『しかりしかり。麿は水神なのじゃ』
ふむ、神様でしたか。同じ地球の神様でもネコミミ幼女とは感じが違いますね。
神が仕掛けたゲームのルールでは、お互い敵同士です。
あなたからすれば、私は闘うべき相手のはずでは?
まあ、話を聞きましょう。
『それにしても先ほどの闘舞は、まったき見事なものであった』
「あの頭が無い魔物と交戦した時のこと?」
『しかりしかり。あれは無頭鬼という魔物じゃ。西から流れてきたのだが、粗暴な者たちでの。みなが難儀をしておった』
なるほどね。
この辺りで一番ヤバい魔物ですか。「データ」に入っていない情報ですね。
これだから情報収集を怠るわけにはいかないんです。
あれを何とかできるのであれば、地球での生存確率はぐんと跳ね上がります。
『……それにしても、見ると聞くとでは違うものであるな』
「!!」
『そなたは半年前に界渡りをしてきた者であろ? 猫神が血眼になって探しておるがの。
見事に気配を隠したものでおじゃるな。まったき愉快な事であることよ』
「……私をどうするお積りで?」
私は、からからと笑う水神に訊ねてみた。
『何もせぬよ』
へっ? ……いま、盛大に足払いをかけられましたよ。
ここは敵地だと思っていましたのに。なんで?
……神が仕掛けたゲームとやらはどこに行っちゃいましたかね?
『そなた、魂魄の半分以上を失いながらも蘇生した者であろ?
世に珍事は多けれど、これほどに寿ぐべき慶事はないのでおじゃる』
前にもそんな話を聞きましたね。そんなに珍しいんですか。
『稀有のなかの稀有である。かような存在を粗末には扱えぬよ』
「つまり? 私は?」
『平穏を望むのであれば、この地で好きに暮らせばよい。邪魔はせぬよ』
……なんてこったい!
地球は敵地…… ではありませんでした。
ナギの勘違いだったようですね。
シュトーレンは美味しいですね。
ついつい食べ過ぎてしまいそうです。




