脂と水は仲が悪い
モダテの里で百鬼夜行があったとか。
300年ぶりとか言っていましたけれど……
「そーなの。凄かったらしいわよ?」
「なんで疑問形?」
百鬼夜行は、デモンストレーションというか、パレードです。
パレードの参加者は鬼とか妖怪とか… 魑魅魍魎のたぐいですけれど。
伝承によれば、これを見たら死ぬと言われています。
でもね、パレードをするのは決まって夜遅くだそうです。
意外とシャイな人達ですね。
「何か違わない? ……へくちょっ」
百鬼夜行を何とかしようとすれば、武士団でも苦戦を強いられるとか。
でも、百鬼夜行は単純に示威行動…… デモンストレーションです。
昼間に繰り出せば、効果倍増だと思いませんか?。
それなのに真夜中のパレードで済ませるなんて。
百鬼夜行があった事に気が付いた人はどれだけいるのでしょうかね。
カロリーナも、そうでしょう?
お子ちゃまの起きている時間ではありませんものね。
「お子ちゃま言うな! …っ…… く……」
はいはい。カロちゃんは、いい子でちゅねー
おしめは気持ち悪くなってまちぇんか~
喉が渇いたら、お水を飲まなければだめでちゅよ~
「がばげべごぼ…… げほっ… あんたねぇ…… ぐっ……」
熱を出しているうえに、お腹をこわしていますから、水分はちゃんと摂らなければいけません。
脱水症状になると、もっとキツいのですからね。
「……トイレいきたい……」
ベッドからはい出したカロリーナは、前かがみになりながら、よろよろとトイレに歩いていきます。今朝よりは足取りはしっかりしているようです。
手助けは要らない? ……そうもいきませんよぉ。
「はいはい、おむつを脱ぎ脱ぎしまちょうねぇ~」
「もう、いやだぁ……」
彼女も好き好んで、おむつ少女のコスプレをしているわけではありません。
可愛いスタイやフリルたっぷりのオムツも、本来ならば必要ないのです。
単に、私がカロリーナに意地悪をしているだけなのです。
食べ物の恨みは、マリアナ海溝よりも深いのです。
今回ばかりは逆さ吊りにされても文句は言えないのです。
で、カロリーナは何をしたのかというと……
夕食で出されたバターコーンをひとり占めしたのです。
それもバターをたっぷりと追加して、ご飯は私に押し付けて。
クラウゼルさんは、旦那様と寝室に引きこもっているので、カロリーナの偏食ぶりにツッコミを入れる人がいなかったのも敗因ですね。
……ふりかけご飯も、決して、悪いものではないのですけれど!
旬のトウモロコシを使った料理なのです。
私だって食べたかったのですよ?
こんな不公平を、誰も見ていないはずがありません。
きっちりとバチが当たりましたとも。
暑いからといって、冷たくした麦茶をたっぷり飲んだのが決定打でした。
天罰覿面とはこのことです。
脂たっぷり水分たっぷりの食事で胃腸を酷使していい季節ではありません。
ついでに夏風邪もひいていたようですから、完治を目指しましょう。
彼女が着る寝間着の替えがありませんでしたから、オーバーオールを着てもらいましたけれど、それは仕方がない事なのです。
「うううううう……」
カロリーナはトイレから出てくると、ベッドにもぐり込んでしまいました。
濡れタオルをおでこに乗せていますが、すぐに温まってしまいます。
免疫システムが活発に働いていますから、熱が出るのは仕方がありません。
でも、高熱が続くのは別の意味で問題があるのです。
「高熱が続くのも問題です。熱さましを使いましょう」
「それ、やだぁ……」
おむつも脱ぎっぱなしだし、寝巻も汗でぐっしょりですから、どのみち着替えは必要なのです。このまま高熱が続けば幸せな結婚生活ができない身体になってしまうかも知れませんよ。
はいはい、暴れない、暴れない。
すぐに済みますからね。
トウモロコシを使った料理はいくつもありますが、私の好みはこってり系。
みなさんは、どうですか?




