現れ出でたもの
考えられる中で、最悪の部類に入る状況に出会っちまった。
森林の悪夢とも言われる無頭鬼だ。
いわくオーガ以上の強靭な肉体と再生能力を持った、狡猾な魔物。
その高い戦闘センスは、相手から奪った武器を使いこなす事すら出来る。
「気合いを入れろ! 絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!」
「「応!!」」
くそっ、遭遇と同時に撤退戦だぜ。
とにかく姫様を逃がすための時間を稼がねえと。
「魔法を使える者は、的を絞れ! 一か所に集中させるのだ」
背後で一斉に魔法の詠唱が始まった。ぎりり、と弓を引き絞る音が聞こえる。
俺は刀を鞘からすらりと引き抜いた。
「かかれいっ!」
号令と共に、大弓から放たれた無数の矢がアケパロイを襲う。
次いで、魔力弾の集中攻撃が始まった。奴の右半身に同時に命中する。
「やったか?」
「……無傷です! やばい、こっちに来る!」
アケパロイは強敵だと言われているのは、その高い知性ゆえだ。身体の大きさは、我々の倍ほどでしかない。オーガに比べても小柄だが、その頑丈な肉体ゆえに防御を無視した攻撃を繰り出してくるのだ。
そして、武器は何でも使う。太い木の枝をこん棒代わりにする事も、敵から奪いとった武器を使う事もある。
「武器のたぐいは持っていないな」
「拳士タイプですか。一発喰らったらオシマイですな。でも……」
イザックは、殴りかかってきたアケロバイの腕を掻い潜ると、左足の太ももに大剣を叩きつけた。
「……当たらなければどうという事はない!」
無頭鬼は足から流れ出た血を見ると、咆哮をあげた。
そして、ゆっくりと包囲した武士たちを見た。
どご! がぎゃっ!
「ぐあ!」「ぐべっ……」
次の瞬間に奴の姿が消えた。それほどまでに素早い動きだった。
ひゅごっ!
誰かが飛ばしたファイヤーボールは、手のひらで弾かれ、
同じタイミングで射た矢は、硬い皮膚にはねかえされた。
「うおおおおおお!」
馬に乗り、槍を構えて突撃した兵は、馬ごと吹き飛ばされ、
弓を捨てて大剣で切りかかった者たちは、風に舞う落ち葉のように…
「馬車は… 姫様はどうした?」
背後を振り返ると、馬車は動いていなかった。いや、動けないのだ。
「くそ、なんてこった!」
背後からゴブリンの群れが襲い掛かってきたのだ。後詰めが抜かれたと?
10名ほどの武士が、必死で戦っている。
時間をかければ殲滅出来るが、目の前の敵はそれを許してくれるだろうか。
一筋の汗が頬を流れた。
その時、戦場の空気が、変わった。
その場を覆いつくしたのは、沈黙。
その沈黙を破るように、左手の森の中から音が聞こえる。
かさり。かさり。
森の奥の小径にいる何かが、落ち葉を踏む音だ。だがその気配は尋常じゃない。
これに比べれば、眼前のアケパロイですら格下と思えるほどだ。
「っく…… ここへきて新手か?」
「ザーラック様…… いろいろと、世話になりましたなぁ」
「イザック? ……まさか、お前……」
「せめてヤツだけでも…… ザーラック殿、うまく逃げ延びてくださいよ」
イザックがまとっているマナが、彼を中心に渦を巻き始めた。
それは周囲のマナを巻き込みながら、虹色の輝きを放つ……
「ゆくぞ…… 究極奥義・カミカゼ・チャージ!」
「やめろぉぉぉ!」
イザックがアケパロイに特攻をかけようとしたその時に。
我々の前に森の小径から我々の前に、何者かが静かに歩み出た。
表情を窺う事を許さぬ仮面をつけて。
人の姿をした、銀色の異形が。
上着を頭に被って、宇宙人ごっこ。
永遠のテーマだな、と父は笑っていましたけれどね(笑)




