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夢の中の現実

 自我に目覚めた司書の性格はヤバい方向に進化しています。

 機械ならではの根気強さと、好奇心のバッドミックス。

 それが司書の人格部分なのです。


「司書とは、ちょっと相性が……」

「そうじゃろうなぁ」


 創造神様はニマニマしながら、私をながめています。

 いったい何を想像していやがりますかね。

 ああいう表情をする時は、何かを企んでいる証拠です。

 とはいえ、無邪気なイタズラ、お笑い…… その程度のものですが。


「じゃあ、この魔晶石はいただいていきますよ」

「うむ、戸締りはきちんと、な」


 戸締りって… ドアをキチンと閉めるという事ですよね。

 いまさらだと思うのですけれど……


 私の部屋に使われているドアはヤポネス様式です。つまり、ドア・プレートを左右にスライドするタイプですね。

 私の固体周波数に調整された自動開閉システムには自信があります。

 つまり戸締りについては完璧という事なのです。


「へんな創造神様…… ま、いっか」


 そのまま部屋に戻った私は、ぼふっとベッドに飛び込むと。

 ポケットから魔晶石を取り出しました。

 普段使っているものと同じ規格ですね。中身は脳波記憶だそうですが。

 これは経験や記憶を正確に伝えるための最良の方法とも言えます。


 誰の記憶を複製したのか気になるところですけれど、創造神様がくれたものですから、危険という事は無いと思いますけれど……

 さっそく再生してみましょうか。


 サイドテーブルにファミリーステーションを置いて。


 これは35世紀に発売されたフルダイブ型のゲーム機ですが、このタイプのモノとしては最高峰になるでしょう。その後の時代に作られた無数のゲーム機に搭載されている基本的な機能はすべて備えています。


 トイレも済ませましたし、ゴーグル付きのヘッドセットとの接続もオッケー。

 メディアカートリッジの部分は魔晶石用のものに改造済みです。

 ベッドに寝転がって、ヘッドセットをかぶると準備はオッケー。


 魔晶石をセットして、スイッチ・オン!

 静かな音と共に、機械が起動シークエンスに入ります。

 同時に私の精神も電脳空間にダイブを始めて……


 軽い浮遊感を味わった後、私は森の中の開けた場所に立っていた。

 森のざわめきめきが聞こえる。

 聞き覚えの有るような無いような鳥の声や獣の鳴き声。


 このあたりでメーカーのロゴが表示されるのですが、うざいのでカット。

 著作権? 知的財産権の侵害? ここでは意味をなしません。

 ここは地の果て、時の果てを通り過ぎた世界なのですから。


 そのまま森の中心部に歩いていくと、苔むした古い石板の前に。

 ここが電脳世界の入り口になる。

 森の中を移動しなければならないのは、その間に機械と精神の同調に問題がないか最終チェックをするためだ。

 ここで問題があれば、意識は現実世界に戻される事になる。


 よし、同調に成功!


 石板に手を触れると、ラクダのような目をした、大きな鼻の執事が現れた。

 この執事にもアロイシャスという名前がある。

 メーカーのこだわりと言うかなんというか……

 彼は私の前で一礼すると、いつものように口上を切り出した。



『あなた様は、もう一つの次元空間に入ろうとしています。

 視覚と音だけでなく、想像力がもたらす不思議な世界。

 これからあなた様は、素晴らしい体験をなさるのです……

 私はこの世界の案内人de… d…』



 おや? 調子が悪いようですね。

 彼の案内で、行きたい世界を選ぶことが出来るようになっていたはず。

 みるみるうちにデジタルノイズの塊となったアロイシャスは、光の粒となって消え去ってしまった。


 ……まあ、いいですか。

 石板が消え去ると、そこには見慣れないアイコンが浮かんでいます。

 いつもならアロイシャスが案内してくれた先にある筈の空間です。

 ゲームセレクト画面を通り越したようなもの…… でしょうか。


 それとも?


出番が一瞬しかなかった、ミスター・アロイシャス。

しくしく(笑)

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