そうだトンネルを掘ろう(後編)
掘ったトンネルが、土の重さで崩れないように。
大量の海水が入ってきても、問題が起きないように。
そのための方策として、コンピューターは純粋に工学的な設計をしました。
「まさか岩石を熔接するとは… これは盲点でしたね」
魔法という概念を理解できないのですから仕方がありません。
それだけに、熔接というのは新鮮な発想だと思いますよ。
トンネルの強度も岩石の組み合わせに比べると数倍にアップするそうです。
『なぎ、なぎ、はやく岩石工場を作ろウ』
アーロイスもずいぶん乗り気ですね。
今まではトンネルは私が掘って、ダンジョンの壁を亜空間要塞で作っていました。
それを私が組み立てていたのです。アーロイスには出来上がったダンジョンを与えていただけだったのです。
今回の工事はアーロイスが初めて参加するのです。
早く工事をスタートさせたいという気持ちは分かります。
でも、急いては事を仕損じるといいますよ。
「あわてては駄目ですよ、アーロイス。物事には順序があるのです」
『はぁい……』
砕いた岩石なんかはプラントまで…… 鉄道で輸送するということで。
プラントでは運んできた岩石を熔かして型に流し込めばいいし。
あとは岩石ブロックは熔接した方が良いと言っていましたね。
それならば、岩石ブロックを作らなくても… 問題はありませんね。
「岩石を熔かしたら、そのまま壁に加工してしまいましょう」
『なぎ、なぎ、どうやっテ?』
そこは水の流れをコントロールする魔法を応用すれば良いのです。
少し暖かいですが、熔けた岩石ならば液体なのです。
位置が決まったら、亜空間要塞にある反撥フィールド発生器の出番です。
これで力場を展開して岩石が冷めるのを待つだけ。
こうなると一種の鋳物のようなものですね。
反撥フィールド発生器で使うエネルギーは心配ありません。
なぜなら……
亜空間要塞のメインの動力炉は反物質を利用したものです。
反物質なら自前で作る事ができますし、貯蔵庫は常に満タンですから。
「問題はアーロイスのコントロールを受け付けるかどうかですが……」
『なぎ、なぎ、コントロールできるから大丈夫だヨ』
「そうですか。それならば問題はありませんね」
何を今さら、とお思いでしょうが、ダンジョンマスターはダンジョンの支配者なのです。ダンジョンコアを操作する事によって、ダンジョンに関わる事ならば大抵の事ができるのです。
たとえば、ダンジョンの構造に手を入れるなどですが、迷路型のダンジョンには有効です。
さらに地理や環境までも意のままにできますよ。
かつて、とあるドラ息子を始末したのも、この機能を利用してのことです。
そのために必要なトンネルは手掘りで頑張りましたとも。
あの時に岩石を熔接しなかったのは、アーロイスがダンジョンをコントロールする時に問題が出るかも知れなかったからでしたが……
精密に加工された岩石ブロックを量産できるからの無理無茶無謀でしたね。
そう言う意味では問題はなくなったようです。
ダンジョンも経験値を稼いでレベルを上げればスキルも伸びますか。
お食事用のトンネルやラジコン部屋の設置は無駄ではありませんでしたね。
それでも、まだまだ経験が足りていません。
本来ならば、ダンジョンの機能として、トンネルを掘る事も出来るはず。
ダンジョンコアのさらなる成長に期待しましょう。
「トンネルがあればあとは何とかなるのですね?」
『コンピューターが教えてくれルから、大丈夫だヨ』
地下500メートルに最低でも全長40キロメートルはあるトンネルを作ろうとしているのですから。トンネルの強度計算や、ルートの選定も任せてみました。
私も3次元CADあたりは普段使いをしていますからね。
『そろそろトンネルのデータが出来上がると言っているヨ』
「なかなか素早い仕事ぶりですね。じゃあ、始めましょうか」
さあ、ノってきました。
さっそくトンネルを掘るための機械を作ってしまいましょう。
名付けて波動掘削機。
うふふふふ。
掘って掘って、掘りまくりますよぉおおお!
トンネル工事がようやく始まりました。
この時点で海底に転がっている資源は定期的に取りに行っています。
そういう訳なのでナギたちは海岸までの地形はすでに把握済みです。




