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エスターの暇つぶし

 オノール湖の水神から相談事を持ち掛けられました。

 暇つぶしには丁度良いかと思いましたが、不安もあります。


「水神様に眷属がいる事は秘中の秘でしょう。誰も知らないし、仮に言っても信じないでしょうね。それほどの人材を使者に立てた… 立てざるを得なかった」


 つまりは、そういう事なのです。

 いつも飄々と構えている姿からは想像もつきません。

 緊急事態ではないにせよ、時間が限られている。

 最悪の場合は、大惨事になりかねない何かが進行中という事… かな。


「多分に、そういう事であろうかと」


 何が起こっているのか分からないと、対策の打ちようもないわね。

 その気になれば、この屋敷に水神が自分で来る事もできたはず。

 なのに、わざわざ使者を立てて、場所と時間の調整をするならば、水神の希望は秘密の会合をしたいという事ですね。


「某も仔細は承知しておりませぬ。某はエスター様に口上を… と」

「事情はわかりました。それでは……」


 今日は… 遅いから、明日にでも出発するとして… コジマの森あたりかしら。

 距離としてはそう遠い所でもありません。

 どうせ彼は霞に乗ってくるのだから、距離があっても問題にしないでしょう。


「明日はコジマの森にピクニックを予定していたのですが……」


 あのあたりならば、あまり人が立ち入るような場所ではありません。

 去年の梅雨の頃に異世界の大地と入れ替わりがありましたが、空間的には安定しています。このような現象は、あったとしてもあと数回でしょう。

 それも赤道よりも南側になるはずです。


 時空連続体同士の接触は不幸な出来事でしたが、時空間の混乱はピークを越えたと見てもよいでしょう。太陽系も接点となった空域からは離れつつあります。

 次に太陽系の銀河系の赤道面に突入するのは6000万年以上も先の事です。

 少なくとも危機は去ったと判断しても構わないでしょう。


「……水神様が、お越しになられるなら、昼餉(ひるげ)をご一緒したいものです」

「は、さっそく主にお伝え致します。では…」


 ディノイドはエスターに一礼すると、部屋を後にした。

 しばらくすると庭石のあたりで虹色の光が生まれたのを見届けた私は、傍らに控えていたセバスに目を向けた。


「エスター様…… あの者は…」


 ああ、やはり聞こえていませんでしたね。

 レーザー通信もどきの会話でしたから、セバスから見れば私が忍者と静かに向かい合っていただけのように見えたのでしょう。この会話方法は、ほとんど口を動かす事もありませんから。


「間違いなく水神様の関係者でしょう。しばらくは内緒にしておいて頂戴」

「承知いたしました」


 さすがのセバスでも、彼らの正体を知ったらびっくりするでしょうね。

 爬虫人類は地球人とは根本的な所で違うのですから。

 河童と似たようなもの?


 とんでもない。

 仮に爬虫類から進化した人類だとすれば、全く別の生物と考えて良いでしょう。


 これは地下室のセンサーで『遠く』から覗き込んだ結果なのですが。

 脊椎が頭蓋骨を支えている部分は人類よりも合理的な構造になっています。

 腰の骨の構造もまたしかり。

 ある意味では人類よりも直立2足歩行に向いていますね。


 エルフが森林地帯で、ドワーフが山岳地帯で生きる延びるための進化をしたのと同様に、河童は水中を生活の場に出来るように進化した人間なのです。

 異種族婚をすれば子孫を残せます。


「急な話ですが、明日はコジマの森までピクニックに行きたいのだけど…」

「それでは支度するように申し伝えておきます」

「頼みましたよ」


 私は自分の部屋に戻ると、クローゼットの扉を開いた。

 王宮に行った時などのように、同じ服を連続して着る事が出来ないような場面もあるので、服もそれなりの数を持っています。


 さあ、明日はどんな服を着ていこうかしら。

神話が(極端に脚色はされていますけれど)完全なフィクションではないという考え方があります。地質学や考古学の研究からも、それっぽい発見があったとか。

神話の中には人類が爬虫人類と出会いがイメージ出来そうなものもあります。


たとえばマヤ神話で出てくるククルカンは、人類の創造に関わり、文明を授けたと伝えられる創造神ですが……

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