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亜空間要塞

 身体にのしかかる重力を感じて目を開けると、そこは天然の洞窟のようだ。

 洞窟の中は太陽の光ではなく、ぼんやりと青い光で満たされている。

 青く輝く水晶が洞窟の中心ちかくにあるせい、なのか。

 それを除けば、自然の中にある洞窟……


「っつ!? いかん」


 はっと気が付くと、私は隣接空間(りんせつくうかん)に転移した。

 ふう、やばいやばい。

 あの洞窟が、どのような場所か分からないのに呆けていたとは。


 ここは『通常』の空間とは完全に切り離された空間だ。何があっても探知される事はない。今の身体のままでは不安定だ。ちょっとした事で命を失いかねない程に脆弱なのだ。なにせ、今の身体は直径50センチくらいの球体だもの。


「ふぅ…… とりあえずは安心だな。それにしても凄い設備だ」


 この空間に何があるのか、知ってはいたが、設備というよりも、亜空間要塞とでも言うべきポテンシャルを秘めた複合施設のようだ。


 まさに…… 見ると聞くとは大違いというのは、まさにこの事だ。

 床から1メートルくらいの所をふよふよと浮かんでいるんだが、ここからの視点からだと、とてつもなく巨大な空間に見えるのだ。

 ここがエントランス、というところだな。


 間接照明により、柔らかい光に包まれた空間は、決して広いとは言えない。

 大きさは、せいぜい直径は10メートル、高さは3メートルくらいかな。中心に2メートルくらいのサークルがあり、そこだけが一段高くなっている。これが転移ポイントだな。ここから『外』の世界と行き来するわけだ。


「さぁて、と。まずは居住セクションに行きたいんだが… 方向がわからん」


 整いすぎた空間はどの方向を見ても同じ景色だ。天井にも床にもそれっぽい表示はないなぁ。全体の構造はある程度把握しているとはいえ、自分の家で遭難するというのもシャレにならん。


 ……ちょっと落ち着こうか。

 こういう時は壁に沿って時計回りに回ってみれば済む事だ。

 今日は色々あって疲れているし、とっとと休みたいものだ。


 慎重に壁を探っていく。

 どこかに壁と見せかけた何かが有る筈なんだが…… たとえば隠し扉とか。


「……なんてこったい!」


 俺はべちゃりと床に崩れ落ちた。出入口は、出発点のすぐそばだったからだ。

 もしも出発点から左側に移動していれば数秒でたどり着いただろう。

 慎重に調べていったから、それだけで2時間くらい掛かってしまったぞ。

 壁の前に行ったら、一部がすっと引っ込んで左右に分かれたではないか。


 べちゃりと崩れ落ちた途端に、設備の情報が頭の中に流れ込んできた。

 そう言えばアイテムに触れれば使い方が分かるようにしておくと言っていたな。

 くそう、駄目神(ヘルマ)め。こいつもアイテムだとは思わなかったぞ。

 めっちゃ大切な情報じゃないか、そこんとこは。


 そんな事を思いながら、ふよふよと通路を進んでいく。

 距離にして5メートルだが、重力に逆らって浮いたままでいるというのも大変なんだ。浮くのは本能的に出来るんだが、慣性という奴がな。カクリヨでは体重を意識しないで済んだんだが、ここはそうもいかんからなぁ。


「……何じゃこりゃ!?」


 居住区のドアを開けると、そこはがらんとした空間だった。

 どうやってドアを開けたか、だって? 通路の突き当りまで行ったら、壁の一部が音もなく開いたんだ。さっきと同じ仕掛けだな。ぱっと目には扉があるなんて判らないくらいに精巧に出来ている。さすがは神の技術だ。


 そして…… さっきまでの感動を返しやがれ。


「手抜きというか、素材のまんまというか…… どう見ても手抜きだな」


 広さ的には6畳間、というところだが。

 部屋の半分を占めるキングサイズのベッドがあるだけで、他には何もない。というよりも、壁も天井も、合金製の構造材がむき出しになっているのだ。内装材としての壁すらない。

 工事を中断した建築現場に、とりあえずベッドを押し込んだだけじゃないか。


 まあいい。とりあえず、この世界で暮らすための身体を作らないと。

 その前に休憩だ。


 疲れ切ったぞ、俺は……

 取りあえず… 寝よう……


 ベッドの上に着地した俺は、心地よい睡魔に身を任せる事にした。


 起きたら、身体を創り始めよう。

 身体の設計図――遺伝子情報はヘルマからもらっている事だし。

ようやく主人公が出現したのは、ちょっとした洞窟でした。

肉体的にも精神的にも不安定なので、口調なんかもおかしいです。


……手抜きなんかじゃないですよ?

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