お粥は美味しい
しばらくすると、カロリーナは無事に復活しました。
消耗した身体にはブドウ糖が一番です。
穀物などに含まれるデンプンは唾液で分解されて糖分になります。最終的にはブドウ糖に分解されて腸で吸収されるのです。
これがエネルギー源となって、人間は動き回る事が出来るのです。
もっとも、これが全てではありませんけれどね。
カロリーナがデスメタルを歌い始めた事で、腹巻は宿主が暴走を始めたと判断したのでしょう。そのために腹巻は大量のエネルギーを一気に吸収したのです。
結果としてカロリーナはひっくり返って動けなくなったわけですが。
充電切れを起こしたスマホのようなものですね。
「あ~、お粥が美味しいわぁ」
カロリーナは小さなお椀に少しづつ。ゆっくりと噛みしめるように。
色々な種類のあんやそぼろが添えてありますね。
私たちの献立はきのこがたくさん入ってる雑炊です。
「そのうちに、別の味付けも考えましょうね」
味付けは基本的には川魚の焼き干しか、山鳥の出汁をベースにして、醤油や塩で味を調えたものです。野菜や果物も丁寧にすりおろしたものが使われています。
私たちの雑炊も基本的には同じものですから、雑炊から取り分けてお粥にしたのかも知れませんね。
こうなると離乳食を作る感覚でしょうかね。
「ねえカロリーナ」
「ん? なに?」
「いつもこんな感じなの?」
「そーよ。散歩がてら森で果物を食べてるけどね」
そうなると固形物を口にしていないという感じでしょうかね。
数字の上では健康そうに見えますが、何か見落としがあったかも知れません。
夕方のデスメタルの歌詞もそうでしたが、飢えていますね。
食べ物ではなく、食べるという行為そのものに飢えているような気がします。
「身体の調子は? さっき倒れたのが気になるの」
「んー… 別に無いわね。以前に比べて身体が軽く感じるくらい」
果物を採るにしても、木に登らなければなりませんね。
「そうなの。爺やに見つかるとうるさいし」
「爺や?」
「カロリーナが言っているのはジャアック様の事ですよ」
「試合の時の?」
「そうですよ。彼が私たちの教育係でしたから」
エルフ至上主義の脳筋ジジイだと思っていたのですが……
意外な一面を見たものです。
「ドゥーラの学院に入学出来たのは……」
「爺やの教え方が上手だったからよね」
ドゥーラの学院の入学試験は、志願者を振るい落とすための試験だと聞いたことがあります。過去の問題集を見る限り、出題者の悪意を感じる内容ですから……
「分からない所は、分かるまで真夜中まででも付き合ってくれたし」
「入学してから分かったのですが、あの時の教材は学院中等科の教科書でした」
「なにそれこわい」
話を聞いていると、決して悪い人ではないのでしょうね。
彼は彼なりに一生懸命だったのかも知れません。
辛丑の役の後は、1年ちかくも続いた泥沼のような戦争。
そして止めとばかりに、あのヤスト会戦があったのです。
小さなものまで含めれば毎日が戦争だったかも知れません。
大門でイザックさんが言っていましたね。
──モズマ武士団が戦うは誰がために? と。
ドゥーラ王国は多くの犠牲を払って、やっとの思いでつかみ取った平和な世界の象徴なのです。ジャアック老は、それを永らえるために、彼女たちの教育に手を抜かなかったのでしょう。
それは横に置いておいて。
中学生に高校の教科書を理解しろというのは、鬼ですね。
理解してしまった彼女たちの苦労が偲ばれます。
「たしかに、過去の問題集を見る限り、その位の事をしなければ上位合格は難しかったかも知れませんね」
「えっ?」
「幾何学と生物学が苦手のようですね。書き込みがたくさんありましたよ」
ふたりとも何を驚いているのでしょうかね。
今の私はデキる女なのです。
この程度の問題なら何とかなりますよ?
将来的には、こんな展開もアリかと……
「買ったばかりの刀の試し切りをするぞ」
「もう夜ですけれど? やはり武士と言えば闇討ちですか?」
「いや、刀が私の心に囁くのだ。ふ、ふふふ… 斬りた……」
ちゃきっ、がしゃ
「何だそれは?」
「ただの「しゅまいざぁ」です。お気になさらず」
ダダダダダ……




