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セピア色の珈琲

作者: 関谷光太郎
掲載日:2020/08/26

 山の中にひっそりと建つ喫茶店。


 満天の星空の下、ランタンの灯りが窓から漏れる。


 こんな辺鄙へんぴな場所に店があること自体、不思議な空間だった。


 ここのマスターは中年の婦人。


 その穏やかな表情で迎えられると心が和む。


 深い森を抜けて、やってきた一人の客。客は婦人にそっと告げる。


「ご主人が、亡くなりましたよ」


 婦人は客の言葉をかみしめるように聞き、静かに答えた。


「じゃ、もうすぐやってくるわね」


 静かなジャズの調べとともに、喫茶店の空間がセピア色に染まる。


 姿を現した男は、自分のヨレヨレの姿を恥じながらも婦人との再会を喜ぶ。 強い絆で結ばれつつ、失った多くの時間。それを取り戻すかのように見つめあう二人。


 この世で最後のコーヒーは、この時のために淹れられる。


 セピア色の珈琲。


「さあ、どうぞ」


 カップから立ちのぼる湯気の向こうで、婦人の姿が消えていく。


「すまない。多恵」


 婦人もまた死者だった。


「あいつは、天国にいくんでしょうか?」


「さあな。天国なんて人間の作ったおとぎ話だろ。少なくとも俺は知らない」


「へえ、そうなんですね」


「確かなのは、お前たち二人はこれからも一緒になれないということだ」


「俺は地獄行きでしょうからね」


「それもおとぎ話。そんな場所、俺は聞いたことがない」


「死神さんが言うんじゃ、間違いない」


 消えていく男。


 消滅する喫茶店。


 闇夜の森に一人残った客はつぶやいた。


「死神だって人間が作ったおとぎ話さ」



 おしまい。

お読みいただきありがとうございました!

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