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セピア色の珈琲

作者: 関谷光太郎

 山の中にひっそりと建つ喫茶店。


 満天の星空の下、ランタンの灯りが窓から漏れる。


 こんな辺鄙へんぴな場所に店があること自体、不思議な空間だった。


 ここのマスターは中年の婦人。


 その穏やかな表情で迎えられると心が和む。


 深い森を抜けて、やってきた一人の客。客は婦人にそっと告げる。


「ご主人が、亡くなりましたよ」


 婦人は客の言葉をかみしめるように聞き、静かに答えた。


「じゃ、もうすぐやってくるわね」


 静かなジャズの調べとともに、喫茶店の空間がセピア色に染まる。


 姿を現した男は、自分のヨレヨレの姿を恥じながらも婦人との再会を喜ぶ。 強い絆で結ばれつつ、失った多くの時間。それを取り戻すかのように見つめあう二人。


 この世で最後のコーヒーは、この時のために淹れられる。


 セピア色の珈琲。


「さあ、どうぞ」


 カップから立ちのぼる湯気の向こうで、婦人の姿が消えていく。


「すまない。多恵」


 婦人もまた死者だった。


「あいつは、天国にいくんでしょうか?」


「さあな。天国なんて人間の作ったおとぎ話だろ。少なくとも俺は知らない」


「へえ、そうなんですね」


「確かなのは、お前たち二人はこれからも一緒になれないということだ」


「俺は地獄行きでしょうからね」


「それもおとぎ話。そんな場所、俺は聞いたことがない」


「死神さんが言うんじゃ、間違いない」


 消えていく男。


 消滅する喫茶店。


 闇夜の森に一人残った客はつぶやいた。


「死神だって人間が作ったおとぎ話さ」



 おしまい。

お読みいただきありがとうございました!

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