最凶の害獣 前編
ドレイクは火竜という意味らしいです。
日が昇ってきた。清々しい朝だ…。
『グゴァァァァァァァァァァァ!!』
「ヒィィィ!わ、私にタンクは無理ですよぉぉぉ!ちょ、ちょっと!考え事なんてしてないで皆さん助けて…うわぁぁぁ!危なぁ!?」
アリエスがドレイクに追われて逃げていた。
最初は「ふっへっへ、私にかかればあんなの一撃ですよぉ!」
などとほざいていたのだが、どうやらドレイクはその発言が癇に障ったらしく、挑発魔法も使っていないのに執拗にアリエスを追っかけていた。
『グ、グガァァァァァ!!グガァァァァァ!!』
なぜかドレイクが「逃げてんじゃねぇぇぇ!待てやおんどりゃぁぁぁ!」
と言ってるような気がした。
なぜ誠たちがドレイクと戦っているのか…時は昨夜に遡る…
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「今、ドレイクは森にいます。しかし、このままではウラル村へ到達するまでのタイムリミットは明日の朝です。冒険者の皆さんは迎撃準備をお願いします。迎撃に失敗すれば街が壊滅すると思いなさい。」
最後の言葉…余り顔に出してはいなかったが、毒舌嬢さんは険しい顔でそう言った。
冒険者たちに緊張が走る。
「お…おっしゃぁぁぁ!行くぜぇ野郎共!今こそ俺ら田舎もんの意地を見せるときじゃぁ!今夜までに準備済ませとけぇぇ!」
冒険者の一人がそう叫んだ。
声は震えていたが、声には強い決意が篭っていた。
「そ、そうだな!俺達なら勝てる筈だ!今までなんの為に努力してきたと思ってんだぁ!」
「筈じゃねぇ!勝つんだよぉ!」
「よっしゃぁ!今日はうちの店がてめえらのメシ代奢ってやる!奢ってやるんだからぁ、勝てよおい!」
「威勢がいいじゃねぇかおやじぃ!これで怖いもんなしだ!」
ー俺らで勝つぞぉ!ーオォォォォォ!!ー
すげぇや…これが田舎もんの意地か…
俺は素直にそう思った。
さて…俺らはどうするかな?
「う〜ん…夜なんだろ?俺夜は弱いからなぁ…今から寝て力付けとくわ。」
「そぉですね〜、今のうちに寝て精力養うのがいいかもです。誠とカムイも寝るといいですよ〜。」
ユーリとアリエスはそう言って、泊まっている宿へと歩いていった。
一方カムイは思案顔で俯いていた。
う〜ん、と唸っている。
何を考えているのかと聞こうとしたら、カムイが突然顔を上げた。
「というわけで、お主の卒業試練はドレイク討伐でどうじゃろか?」
何が「というわけで」なのか…?
まぁそれは置いといて…。
ドレイクを試練にするのか?最凶の魔獣とやらなんじゃ?
「まぁ…最凶の魔獣と言っても…そんなに強くないからの。4人ならなんとかなるじゃろ。さて…わらわも寝に行くかの。」
ん?ちょっと待て?なんでドレイクの強さを知ってるんだ?
と、聞こうとしたのだが、カムイは一方的に話を切り上げてテクテクと宿屋へ向かっていってしまった。
しょうがない…俺も仮眠とるか…
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「…きろ〜……ぉきろ〜…………すぅ〜…………いい加減起きんかい!」
ベシィ!
あだぁ!?
右頬がめっちゃ痛い。てかこの流れ前にもあったような…?
てかもう夜か…。なんかあったような…?
「何呑気な事を考えとるんじゃ!もうすぐ魔獣が来るというのに…。」
あっそういえばそんな事があったような…?
「なんと呑気な…。とりあえず冒険者たちは南門に集合じゃ。はよ行くぞ。ていうか二度寝するな。」
そっと身体を横たわらせてたら気づかれた!?
なんかまたひっぱたかれそうだったので行くことにした。
ま、魔獣が怠いだなんて思ってないんだからね!
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…あれ?ここ南門だよな…?あれぇー?
………。
人がいない?
「人が…おらんの…。ここは確かに南門のはずじゃが…?」
南門にいたのは数名の冒険者?たちとユーリたちだけだった。
あれぇー?今朝は沢山いたような気がするんだが?
流石に状況が理解できなかったので、先に来ていたとある冒険者に聞くことにした。
「…ん?なんでここにいる冒険者が少ないのかって?あぁ…お前らは知らねぇのか。…昼に…ちっとばかしマズいアクシデントがあってな…。」
と、冒険者は苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
ァ、アクシデントォ?
「あ、あぁ…。今朝に冒険者に飯を奢ってやるとか言ってるやつがいたろ?それを食った冒険者共が揃って体調不良を訴えてな…原因は食中毒だったんだよ…。挙句奢ってたやつは行方しれず…。そいつの飯を食ってないやつ…つまり俺らは元気なんだがな…。他の奴らは再起不能さ…。畜生!あんのクソ店!俺らでドレイクをどうしろって言うんだよぉ!?」
冒険者は最後の方はほとんど自暴自棄になっていた。
いやごもっともだけどね。
冒険者が…6人?俺らが4人だから…たった10人で…いやぁ〜マジか〜…。
「行くしかなかろ…さぁお主ら!ぼさっとせず動けぇ!ここで勝てれば大出世じゃぞ!」
カムイが必死で冒険者たちを激励していた。
まぁ逃げてもギルドの規約の1つに違反するらしいから行かなきゃいけんのはわかってるみたいなんだが…。
冒険者たちは死んだような顔で、ユーリは苦笑いしながらカムイに付いて行った。アリエスは…お前…なぜ腰を抜かしているんだい…。
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「で…出たぞぉ〜〜!ドレイクが出たぞ!」
森の前に陣どっていた数名がそう叫んだ。
あぁ…勝てんのかお〜い…。
俺達は10人…勝てるのか…
うわーい勇者たちと同じ数だー勇者様方ー守って下さーい。
『グゥゥゥゥ…グゴォォォォォォ!!』
現実逃避すら許さない魔獣先輩さすがです。
しかし…ドレイクとかいう名前の癖に…トカゲみたいな…弱そう…。
サイズ的には市バスくらい…でかっ。
口からは時折火がチロチロ見えている。
俗に言う火竜って奴だろうか…ぼ、僕はガリガリで肉付き悪いから美味しくないよ!
「なぁんだぁ!ドレイクってただのトカゲじゃないですかぁ!弱そうです…腰を抜かしていたのが恥ずかしいですねぇ〜!」
アリエスが突然ズズイと前に出てきてそう言った。
流石に今の発言には冒険者たちもぎょっとしている。
こいつ…自分より弱そうな奴には容赦ねぇな…。
ただ、ドレイクはどうやら人の言葉がわかるらしく、ギロッとアリエスを睨んでいるが…なんかアリエスはドレイクの地雷を踏みかけているような気がするのは気のせいだろうか。
「ふっへっへ、私にかかればあんなの一撃ですよぉ!」
『グゴォォォァァァァァ!?グガァァァァァ!!』
あっ…
ドレイクがアリエスに飛びかかった。
竜の顔なのにブチ切れている…ような気がする。
こうして始まったドレイクVSアリエスのタイマン。
数時間の死闘の後、話は冒頭へと戻る。
因みに、アリエスとドレイクのタイマンに加勢した冒険者がいたのだが、魔法を飛ばした瞬間、ドレイクが加勢した冒険者をぶっ飛ばしたので、加勢できずに傍観するしかできない誠たちであった。
アリエスは自分よりも実力の無さそうな奴にはマウントを取る癖があります。
天然の挑発道具ことアリエスですね。