緊急依頼
てくてく歩きながら次の話を考えるのが休日の楽しみですね〜。
「【傲慢】よ。魔獣を連れてどこへゆく?」
「ん?そこの声はぁ…【強欲】かぁ?」
初老の男性の問いに対して、頭に角が生え、全身が包帯で覆われている男が、そう答えた。
「どこへってぇ、帝国領のフラル村っつぅところだよぉ。あそこぉ、ど田舎のくせに未だに俺ら悪魔の支配下にねぇんだぜぇ?全ての劣悪生物…ヒトもマジンも、エルフもドワーフもヨウセイもぉ!対して力もないくせに俺らに歯向かいやがってぇ!」
「ふむ…未だ【帝都】【夜都】【水都】【白都】、帝国のどの要所も完全に抑えられておらぬというのに。田舎なぞいつでも叩ける。」
初老の男性…【強欲】にそう告げられた包帯男…【傲慢】は、うっ、と狼狽えた。
「うるせえなぁ!!反乱の芽はとっととつんどくに限るんだよぉ!俺の依代になれるような心の弱った生物も探さなきゃいけねぇしなぁ!それにっ…実績を残さなけりゃ…俺が母上に…殺されんんだよぉ…!」
「ふむ…我らが勇者どもにやられて…いく年月。争ってる場合ではない。我ら7人同士の争いもまた母上に禁じられておるからな。我はここを引き際と見て下がるとするかの。せいぜい頑張るといい。」
そう言って【強欲】は姿を消した。まるで…掻き消えるように。
「ちっ…クソがぁ。【強欲】ごときが調子乗りやがってぇ!行くぞ【ドレイク】!劣悪生物共を血祭りに上げんぞぉ!」
そう言って包帯男は魔獣…【ドレイク】に乗り移って、のそのそと移動を始めた。帝国領のど田舎…フラル村へと向かって…。
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「おい知ってるかルーキー共。もうすぐ【十傑祭】っていう俺ら冒険者の祭典が始まるらしいぜ?今年も酒飲み放題だぜぇ!」
突然ガタイのいいおっさん…じゃなかった、フレッドさんが俺達4人に話しかけてきた。
因みにここウラル村は城塞都市のような風貌のくせに超がつくほどのど田舎らしく、新入りの冒険者は俺達4人くらいしかいないらしい。
てかここで超ど田舎なら都会ってどんだけでかいんだよ。
しかし…十傑祭?聞いたことがなかった。ユーリやアリエスは首を傾げていた。なぜかカムイだけは顔を青くしてるが…なぜ?
「あれ?お前ら十傑祭の意味も知らんのか。お前ら十傑祭の起源てのは小せえ子でも知ってることだぜ?どこから来たんだ…って、こういうことを同業者に聞くのはご法度だった、ワリィな。」
後輩に頭を下げる先輩…。人間できてるわぁ…。
「おい、何上の空になってんだ。…まぁいい、十傑祭ってのは、今からざっと500年前くらいかね、異界から呼び出された10人の勇者のことだよ。なんでも悪魔とかいう残虐なもの共を倒して、世界に平和をもたらし、音もなく消えた…だっけか?ンで、皆がその素晴らしい生き様に感動して、10人の勇者たちがこのギルドでパーティを組んだ日を10人の勇者たち…通称十傑の生誕祭、略して十傑祭って呼ばれるようになったわけよ。わかったか?」
ううんと…要は500年前の勇者たちの生誕祭っつーことかな?
うわぁ…マジかぁ…せっかく能力を手に入れたんだから、魔王やら邪神やらと戦えるのかとちょっぴり期待していたのに…もう倒されてるって…現実は甘くない、かぁ〜。
「う、嘘じゃろう…?わ…我ら十傑の話がここまで浸透しておるとは…。ただ皆で悪魔とかいうおぞましい奴らをシバいただけじゃのに…?このままでは誠にバ…バレる…。」
なぜかカムイが地面に手をついて項垂れていた。
ボソボソ呟いている為聞こえんが。
まぁいいや、さて…いい加減カムイに合格点を貰うための依頼を見つけなきゃな…
ーゴオオオオオン!!!ゴオオオオオン!!!ー
!?ふぁっ!?
突然大きな鐘の音が街中に鳴り響いた。
流石に心臓に悪いて…。
アリエスに関してはビビりすぎてカムイに抱きついてらっしゃる。
涙目でガクブルとかビビりすぎじゃねぇか?
ユーリが苦笑いするのもわかる気がする。
「っ!おい!お前ら!ギルドに急ぐぞ!」
突然フレッドさんが大声を上げた。
なぜギルド?
「でかい鐘の音が鳴った時はギルドの緊急招集の合図なんだよ!冒険者は全員集合が絶対厳守!緊急招集っつーことは…ヤバい奴が出たんだろうなぁ!」
フレッドさんは苦虫を噛み潰したような顔でそう言いながらギルドに走り出した。
俺らも行かなきゃいけんのか…。
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既にギルドには沢山の冒険者たちが集まっていた。
ど田舎と言う割には冒険者の数が多いなぁ〜。
とかくだらない事を考えていたら、ギルド前に人を集めていた女の人が喋りだし…あれ?あの人毒舌嬢さんやん!いや、それは置いといて…
「この度は緊急招集に集まっていただきありがとう御座います。今回の招集理由は、以下の通りです。最凶の害獣の1つ、【ドレイク】が現れました。暇を持て余している穀潰し共は今こそ街の与えてくれた恩に報いるときです。今は南の森に潜伏しているようなので、総力をかけて殲滅してください。以上です。」
毒舌嬢さんはそう言った。
さ、最凶の害獣?な、なんでそんなヤバい奴が村の南にいんだよ…。
ここにいた誠たちを含む冒険者全員の思いが一致した瞬間だった。
最凶の害獣…な、なんか小物感…