そして今に至る
それからも弟は頑張っていた。流石にお手伝いをしただけでは強くなれないことに気づき、木の棒を振り始めた。なんでも、騎士は剣を振る訓練をするらしい。
覚えたての知識を鈴の音のように澄んだ声色で嬉しそうに話す姿は、かわいらしく、思わず頬ずりをした。
「もう、やめてよ、おねぇちゃん!」
「ルイがいい子で私、うれしいの」
そういうと、ふっくらとした頬を赤く染め、ぎゅっと私に抱き着く。
「おねぇちゃん」
私もルイの背中に腕を回す。柔らかないい匂いのする髪に顔を埋める。
「なあに?」
「ぼくね、つよくなるんだ」
「うん。がんばってるもんね」
「だから、おうえんしてね」
「ルイのためならいくらでも応援するよ」
「っうん!」
あぁ、そんな天使なルイが…
「なぁ、姉さん、聞いてる?」
「あ、うん。」
こちらをじとーっと見ている。そうだよね、ルイは真剣に私に相談してくれてるのに、私ったら…
小さく深呼吸をして、真っ直ぐルイを見る。
あの頃では考えられないほど、ルイは大きくなった。今年で15歳、私が10歳のとき冒険者になってから10年経つんだもの。
光に照らされて輝くブロンドの髪に、はっきりとした目元、水光のように煌めくコバルトブルーの瞳。目鼻立ちの整った美しい顔だ。勿論身体は日々の鍛錬で引き締まっていて、とっくに私の背を越し、どこに出しても胸を張れる、美しくも逞しい弟に育った。
これもう、ルイが王子様っていわれても、私頷く。王子様なんて見たことないけどね。
「…姉さん?」
「はっ!」
い、いけない!つい見惚れてしまった…
怪訝そうな、どこか心配した顔でこちらを見ている。
「ごめんね、ルイ。だって、ルイが冒険者になりたいって…」
「うん、そのために俺頑張ってきたからな。」
は~子どもの成長が早すぎて、つらい。
もっと天使なルイを見ていたかった反面、こんなにイケメンに育ったルイを嬉しく思う…
これは家宝ですわ。誰かルイの姿見を写してくれ…!金は積むっ!!
「そ、うだよね。お姉ちゃんが一番知ってるわ…」
「あぁ、姉さんはいつも俺のことを応援してくれた。」
そうだよ。かわいい、大切な弟だもの、応援するよ!
「…母さんにはまだなんでしょ?」
「母さんに話す前に、姉さんに相談したのも訳はあるから。」
「そう…」
え?なに?なにかあるの?
ドキドキしながらルイが次の言葉を紡ぐのを待つ。
「あのさ…姉さんからみて、俺は冒険者になれるかな?」
「え?」
え?
「俺、姉さんに無茶させてさ、魔物狩りに連れて行かせてもらってるだろ?それなりに倒せるようになったと思ってるけど、この村には姉さんしか冒険者はいない。冒険者の姉さんの目から見て、俺は冒険者になれそうかな?それが聞きたくてさ。」
少し恥ずかしそうに、頬を赤く染める。
めっちゃ、なれるよ!もうバンバンなってこい!!!!
ルイを褒めまくり、撫でまわしたい、はやる気持ちを抑えつつ、私は、思いだす。
こんな、素晴らしい、弟を、当て馬にしたくないっ!と。