身の上話を<前編>
さて、ちょっと話はそれるけれども、ここはフーリア王国。
私の住む村はトイ村。
国境に接するこの村には、国境となっているヴォイドの森がある。この森には魔力が満ちているとかで、魔物が住んでいて、滅多なことには人は入らない。けれども、魔力が大地に浸みついていて、珍しい植物や魔物がいる。それらを採取、討伐する者のことを冒険者という。この冒険者は誰でもなれるわけではなく、冒険ギルドで育成を終えた者にその証としてメダルが渡される。精霊との契約で出来たそれは、他人に売り渡すことのできないものらしい。
そして、私は冒険者だ。でもメダルは持っていない。
それは、もう一つの冒険者になる方法で冒険者になったからだ。
再度言うが、この村はヴォイドの森の近くにある。魔物が獲物を求めて村を襲いに来たことが何度かある。
その度に、村の男たちは日々の畑仕事で培ってきた筋肉で槍や鍬を使い魔物を追い払う。倒すことは難しい。けれども深手を負わせることは可能であった。そして、傷を負った魔物は、森へ引き返していく。そのまま森にいてくれればいいのだが、ある時村を襲った魔物は違った。村で起こったことを恨み、憎悪に狂わされていた。一人でも多くの人間を屠り、己の血肉にしてやろうと。
あの日、私の人生は変わった。
その日、私は弟とともに、川辺で洗濯をしていた。森の木の葉は緑色から黄金色に変わっていた。秋の心地の良い日だった。洗濯物を終え、川辺に干しつつ家から持ってきたふかし芋を二人で食べていた。
「明日はどんな天気になる?晴れるかな?」
「んーどうだろう、晴れてほしいの?」
「うん!お母さんも一緒にここでお昼ご飯食べたい!」
「そっか、じゃあ帰ったらお母さんに聞こっか」
父さんに似たブロンドの髪を撫でてやると、コバルトブルーの目を細め、嬉しそうに笑う。それにつられて笑うと、村の方から叫び声が聞こえた。
村に魔物がきた。それも、大半の男たちが領主様に収める作物を届けに行った日の午後。
村は手薄だった。残った男手で追い返そうとしていたが、一人が腕を食い千切られ、また一人が大きな爪で胴体を裂かれた。一人ずつ、確実に屠っていく魔物を目にした。
弟は、いつもとは違う村の惨状を目にし、ひどく怯えていた。
私は、これは現実のものなのか、動揺していた。
最後の男が地に伏せたとき、その裂けた魔物の口が、歪に笑っているように見えた。