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君だけの理解者になりたい  作者: ラリックマ
そして彼は、今までの失敗を学ぶ……
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たった一人の理解者………

 放課後国語研究室か……。

 そういえばあそこに行くのも久しぶりな気がするな……。

 夏休み明けからあまり顔を出していなかった……。

 俺が部活に行っていない間も花は、あの部屋に行っていたのだろうか?

 だとしたら何のために……?

 いや……もう分かりきってることか……。

 あいつのことは俺が一番よく知っているはずなんだから……。

 だから、あいつがどういう気持ちなのかも俺には分かる。

 分かっていた。

 でも……その気持ちから逃げていた……。

 昔だって今だって、俺はずっと逃げてきた。

 あいつと幼馴染以上の関係になることを恐れていた。

 今までの心地よい関係を壊したくない……。

 そう思って、自分の心にいろいろと言い訳を重ねてきた。

 でももう逃げるのはやめる。

 花と俺の中にある感情にけじめをつけるときが来たんだ……。

 ただ一人教室の隅にいた俺は、その場でそう決意する……。


「おーいお前ら。今日はよくやった! 片づけは明日でいいから今日はもうかえっていいぞー」


 教卓の前に立っていた担任がそう声をかけると、教室にいたクラスメイトがぞろぞろと教室を出ていく。

 俺もそれに便乗して教室を出ようと思ったのだが、少し時間を置く。

 国語研究室に行く途中で花に会ったりしたら、気まずくなるに決まっている……。

 あいつとはちゃんとあの教室で……。

 俺たちが一番一緒にいたであろうあの場所で、しっかりと話したい。

 担任が声をかけてから五分ほどが経ち、俺も国語研究室に向かった。

 いつも行っていたはずの教室なのに、今日はやけに緊張する……。

 国語研究室のドアの前に着くと、俺はそのドアを静かに力強く開ける。

 開けた先に待っていたのは、夕日に照らされながら本を読んでいる花の姿だった……。

 とても幻想的で、その美しい光景に思わず見入ってしまう……。

 見慣れた容姿、見慣れた髪、見慣れた姿のはずなのに、今日の花はいつもと違うと感じてしまう。

 俺が来たことに気づいた花は、本をぱたんと閉じて立ち上がった。


「あら? 遅かったわね」


 静かに()き通った声でそう言った花は、小さく微笑んでいた。

 

「まあな……。俺なりに気を使ったんだよ。それで話ってなんだ?」

 

 そうやって花に質問するが、もうだいたい何の話をするのかは察している。

 この質問をしたのは単なる確認のためだ……。

 俺に質問された花は、ふふっと小さく笑うと。


「そうね……。今日の文化祭のこと、そして、私たちの今後についてよ……」


 っと言った。

 まあ大方(おおかた)俺の想像通りのことだった。

 逆にこの場面でそのこと以外に話すことなんてない。


「今日のこと、とても感謝しているわ……。あなたにも、橋川さんにも……」


 花はそういって顔を赤くする。


「正直不安だったの……。また”前みたい”になるんじゃないかって……」


 ”前見たい”というのは中学二年生のころのことだろう……。

 

「でもいじめられるのは大したことじゃなかったのよ……。私が一番怖かったのは、またあなたに見捨てられるんじゃないかと思ったこと……」


 花のその言葉を聞いて、俺の胸は張り裂けそうになる。

 あの日のことを忘れた日は一度もない。

 あの日から後悔してばかりだ……。

 あの日、あの場所で花の手を取っていたら、まだ花と一緒に過ごせたのではないかと毎日思っていた……。


「そのことは……本当にごめん……」


 こんな謝ることしかできない自分が本当に不甲斐ない。

 俺の謝罪を聞いた花は、またしても小さくほくそ笑んだ。


「別に今更怒ってなんかいないわよ……。あなたにもいろいろ事情があったのだし……。それに、次は助けてくれたじゃない。例えあなたが何もできなかったとしても、私はその姿勢(しせい)だけで嬉しかった……」


 そういわれた俺は、さっきとは別の意味で胸が苦しくなった。

 見返りが欲しいとか、そんな理由で花を助けようとしていたわけではないが、俺のしたことが無駄なことじゃなくて、むしろ花のためになったのならとても嬉しいことだ……。

 俺がそんなことを思っていると、花がちょいちょいと手招きをする。

 俺は花の横に立つと。


「見て、この夕日」


 っといって、花は窓の外に映し出されている夕日を指さした。


「とっても綺麗(きれい)で、それでいてとても(はかな)い……」


「あぁ……。すごく綺麗だ……」


「どこか私たちに似ていると思わない?」


「そうか……?」


 花のその言葉に少々戸惑う……。

 花の言葉の意図がいまいち分からない。

 俺が戸惑っていると、花が俺の顔の方を向いて


「えぇそうよ……。私たちの関係は簡単に言葉で表せるものじゃない……。でも、()いていうならあの夕日みたいに綺麗で、それでいてどこか儚い……。そんな関係だと思うのよ」


 そういわれて俺も納得する。

 確かに俺たちの関係は言葉でどうこう表せるものじゃない。

 でも、そんな俺たちの関係に最も近しいのは、あの夕日なのかもしれない……。

 花は俺の方を向いていた首を、また夕日の方に向けると。


「不思議ね……。私たちは一度、離れ離れになってしまった……。それなのにまたこうして同じ高校になって、話をしている……。もしかしたら、運命の赤い糸なんかで結ばれていたりしてね」


「運命の赤い糸か……」


 俺達は本当にそんなもので結ばれているのだろうか……?

 そんなことを思う。


「でも俺たちは一度離れ離れになってしまった……。それなのに、本当にそんなもので結ばれているのか?」


 俺がそう言うと、花はまたも優しく、小さく微笑んで。


「えぇ、確かに私たちは一度離れ離れになってしまったわ……」


「じゃあその糸はもう……ほどけてしまったんじゃないか?」


「ふふ……。馬鹿ね……ほどけてしまったのなら、もう一度、前よりも強く結びなおせばいいじゃない……」


 俺は花のその言葉の意味が分からなかった……。


「つまり……。どいうことだ……?」


 そう聞くと花は、夕日の方に向けていた体を俺の方に向かせて。


「矢須君……いいえ、優太……。ずっと前から大好きよ……」


 っと、花は笑顔で告白をしてきた。

 だが戸惑うようなことはしない。

 もう分かっていたのだから……。

 俺も彼女もずっと、同じ気持ちを(かか)えていたなんてことは……。

 俺も花の方を向いて。


「あぁ……。俺もお前が……。花が大好きだ」


 そういって俺は、花の右手を(にぎ)った。

 

「花は俺がいないダメだからな」


「何言ってるのよ。優太の方こそ私がいないとダメじゃない」


 そういって二人して笑い合った。

 花がいてくれたから俺はここまでやってこれた……。 

 花がいなかったら今頃どうなっていたか分からない……。

 俺はいつも花のやさしさに助けられてきたのだから……。

 そう思ったのは花も同じなのか。


「私たちは、お互い支え合わないとダメなのよ……。私も優太も、とても似ている。悪いところも、良いところもね……」


 花のその言葉に少し疑問を覚える。

 花は見た目も頭脳も全て完璧だ……。

 とても俺と似ているとは思わなかった……。

 いや……。

 でもそれは外見(そとみ)の話で、中身の根本的な部分は似ているのだろう……。


「分かってるよ……」


 そういって俺は、花の手を握りながら、花の背中に寄りかかるように俺の背中をつけて……。


「だって俺だけが」


「私だけが」


「お前だけの」


「あなただけの」


「「世界でたった一人の、理解者なのだから――」」


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