自分と他人……
一週間……。
高校生活を始めて、一週間がたった……。
俺はいつも通りに渡り廊下を歩いて、国語研究室に向かおうとすると……。
「それで、話って何ですか?」
「そ、それは……」
国語研究室の前で、矢木澤とクラスメイトの男子が話をしている……。
深刻な雰囲気だったので、近くで聞き耳を立てる……。
「じ、実はさ……最初から見た時から、好きだったんだよね……。俺と付き合ってくれないかな?」
クラスの男子が矢木澤に告白している……。
というかよく見たら、いつも休み時間俺の席によく座って矢木澤に話しかけてる、針谷君じゃありませんか……。
毎回邪魔なんだよ!
心の中で愚痴をこぼす。
そして、この告白の結果は、多分振られる……。
「ごめんなさい……。気持ちはありがたいのですが、わたしはあなたのことをよく知りませんし……」
「それじゃあこれから知っていけばいいよ! 俺もうクラスでは割と中心人物だし、俺と付き合えば矢木澤さんの株も上がるよ!」
そう返答された矢木澤の顔は、とても相手を見下したような表情になっていた……。
「いえ、本当にごめんなさい……。それに私、他にやることがあるから付き合うとかそんな余裕ないんです……」
そうして矢木澤は、教室に入っていく。
針谷もそれ以上は追わずに、どこかへ行ってしまった。
「いいのか?」
「あら? 今の聞いてたの? 盗み聞きなんて趣味が悪いわね」
「相手はクラスの中心人物……付き合えばお前の株も上がるんだぞ?」
さっき針谷が言っていたことを、矢木澤に言うと、酷く不機嫌になった。
「そういうの、本当に嫌いだわ……。なんで私が他人の評価を上げるために、わざわざあんな自己中心的な奴と付き合わなければいけなの……」
「でも嬉しくないのか? 他人から好かれるって……?」
「別に、いくら他人から好かれようとも何にも思わないわ……。他人は他人よ……」
他人……ね……。
「じゃあ誰からも好かれたくないのか?」
「別にそういうことじゃ……」
「でも他人から好かれても何にも思わないって言ったじゃねぇか……」
「他人とはまた――別の人よ……」
他人とは別の人……?
「なんだよそれ……? 他人は他人だろ……。読んで字のごとく他の人……。自分以外のすべての人間を他人というなら、家族だって例外なく他人だろ……。お前は家族からも好かれなくていいっていうのか……?」
何で俺はこんな話をしているんだ……。
多分針谷の言葉に、俺も怒りを感じたからだろう……。
そしてそのことを矢木澤に言うのは、”他人から好かれようとも何にも思わない”と言う言葉が、強がりに見えたからだ……。
「なんかしらけちゃったわね……。今日は解散にしましょう」
そうして矢木澤は教室を出ていく。
俺もちょっとおかしかったな……。
何であんな話をしたのか……。
矢木澤の過去を知っているからだ……。
他人から好かれなくてもいいなんて虚勢を張って、強がっている彼女を見るのが、とてもつらいからだ……。
そして、彼女がそうやって虚勢を張ってしまうのは……俺が原因だからだ……。