最高の演奏……
「ちょっと、え? 急にどうしたの?」
いきなり引っ張られて意味の分からないと言った様子の橋川だが、今は説明している暇がない。
もう少しでこの文化祭は終わってしまう。
俺はそれまでにどうしても橋川にやって欲しいことがある。
「ほら、着いたぞ」
橋川の腕を無理やり引っ張ってきた俺は、ある場所に着くとその前で立ち止まる。
「え?」
そして橋川はその場所に着くなり、驚きと戸惑いの混ざったような声を出していた。
「え、え? ここって音楽室だよね? 何でこんなところに連れてきたの?」
そう、俺は橋川を音楽室に連れて来たのだ。
彼女がここまで一生懸命頑張って練習してきたバンドを、俺の勝手な都合で彼女の舞台を潰してしまった……。
たとえそれが悪意のあるものでなくても、俺のせいで彼女はバンドが出来なかった。
だからその償いとして、せめて俺だけでも彼女のバンドを聴こうと思った。
「あぁ、俺のせいでお前はバンドが出来なかっただろ」
「いや別に優太のせいじゃ……」
「いや、全てがそうじゃないにしても、少なからず俺のせいでもある……」
俺は橋川の言葉を遮る。
「だからさ……せめて俺にだけでも、お前のバンドを聴かせてくれよ」
そう俺が言うと、さっきまで暗かった橋川の表情は次第に明るくなっていった。
「な、なんだよ優太! いろいろ言い訳してたけど、結局は私の演奏を独り占めしたいってことじゃん」
楽しそうにそう言ってきた橋川を見て、俺も少し気持ちが楽になる。
こんなことで彼女にしてしまったことを許されるとは思っていない……
これは単なる俺の自己満足だ……。
でも……その自己満足で橋川が元気になるなら、俺は何だってやってやる。
二人で暗い音楽室に入ると、橋川が奥の方からキーボードを持ってきた。
「じゃあ観客は少ないけどやりますかー」
橋川はてきぱきと準備を始めて、数分でセットし終わっていた。
俺は床に座って、橋川はキーボードの前で立っているという状態だ。
「じゃあ始めるよ」
そういって橋川は、花たちが先ほど弾いていた曲を弾き始めた。
最初はキーボードだけだからどうなのだろうと思っていたのだが、橋川の演奏は花たちのバンドに劣らないぐらいすごいものだった……。
キーボードもさることながら、橋川は歌の方もとてもうまかった。
そしてサビの部分に入り、橋川の歌の迫力が増すと、俺は鳥肌が立った。
まさか人の演奏を聴いて、こんなにすごいと思わされる日が来るとはおもいもしなかった。
そして橋川が最後のサビの部分を歌いきり、演奏は終わった。
もう終わってしまったのか?
もっと聴いていたい……。
そう思わずにはいられないほど、橋川の演奏はすごかった。
「ふぅー。どうだった?」
「いや、なんていうか言葉に表せないぐらいすごかったよ」
「はは、何それ?」
「つまり、すごくすごかったってことだよ」
俺にはなんて表現したらいいか分からないぐらい、彼女の演奏はすごかった。
彼女も満足のいったようで。
「ありがとう」
っと感謝の言葉を俺に送った……。




