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君だけの理解者になりたい  作者: ラリックマ
彼と彼女の過去……
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彼女の弱さ……

 花と登下校を別々にしてから一ヶ月ほどたった。

 あれから俺たちは一言も会話せずに過ごしてきている。

 いまだに花への嫌がらせは終わることなく、どんどんとエスカレートしていっており、もはやいじめといってもおかしくないところまで来ている。

 この前は筆箱(ふでばこ)の中身をごみ箱に捨てられていたし、花の使っている私物はだいたい隠されるか捨てられるかしていた……。

 でも周りの人間は、俺を含めて誰も助けようとしない……。

 下手に干渉したら自分まで危害を加えられるんじゃないか? 

 そう思うと誰も花を助けようとしない。

 そこまでして、いじめられてる奴を助けようとする正義感の強い人間はいない。

 かつての委員長なら、花に救いの手を差し伸べていたかもしれない。

 だが今の委員長は、心配そうな目で花に視線を向けるだけで、それ以上のことは何もしない。

 他のクラスメイトも、同情はしているのだろう。

 でもするだけ……。

 それ以上のことはしようとはしない。

 ここ最近、というか中学二年になってからというもの毎日が憂鬱(ゆううつ)だ。

 俺はこのクラスが嫌いだ……。

 人を蹴落として自分がそいつより上だと周りに見せつけるように、いじめを平気でやるあの女子達が嫌いだ。

 同情の眼差しを向ける(くせ)に何もしないクラスメイトが嫌いだ。

 教師なのに、見てみぬふりをする担任が嫌いだ。

 自分で解決する力があるのに、何もせずやられるがままの矢木澤花が嫌いだ。

 そして……。

 そして、そんな花に何もしてやれない、何もしようとしない無力で臆病(おくびょう)な自分が大っ嫌いだ……。

 俺はクラスにも、人にも、自分にも失望していた。

 もうすぐ担任の話が終わる。

 最近は教室の施錠(せじょう)もしていない。

 なぜ俺がこんなクラスのために、わざわざ俺の貴重な時間を()いてまで教室の鍵を閉めなければならない?

 これほど時間の無駄なことがあるだろうか。

 日直の号令に合わせて、クラスメイトは次々に教室を出ていく。

 俺もその波に乗るように教室を出る。

 下駄箱で(くつ)に履き替えて立ち上がらろうとしたとき、後ろから『あっ』という声が聞こえた。

 振り向くと、花が右手を前に伸ばしていて、待ってと言わんばかりの表情をしていた。

 俺はその場で花が靴に履き替えるのを待ってから、校舎を後にした。

 花は俺の一歩後を歩くように後ろからついてくるが、会話はない。

 沈黙が続いて気まずい雰囲気が(ただよ)う。

 でも何も声をかけてやることは出来ない。

 俺は花に、どんな顔して何を話しかけてやればいいんだ?

 そんな沈黙が続き、気づけば家の前まで来ていた。

 結局何も話さないまま、俺は一言『じゃあ』と声をかけて家に入ろうとする。

 俺が家に入ろうと、ドアの取っ手に手を掛けると、ぎゅっと俺の(そで)が引っ張られた。

 何事かと後ろを振り向くと、花が俺の制服の袖を人差し指と親指で小さくつまんでいた……。 

 うつ向いたまま袖をつかみ続ける花の行動に、多少困惑したが俺はすぐに冷静になる。

 何か俺に言いたいことがあるのだろう。

 俺は彼女が喋りだすまで待つことにした。

 一分ほどたった時、花は息を大きく吸い、吐き出した。

 そして袖をつかんだまま。


「優太……」


 と小さな声で、弱弱しく俺の名前を呼んだ。

 そして彼女は俺の袖をつかんだまま、顔を上に上げると、真っすぐこちらを見つめる。

 彼女は今にも泣きそうな表情だ。

 目には涙の(つぶ)ができており、今にも落ちそうになっている。

 そして一言。


「たすけて……」


 そう口にした。

 その言葉を聞いた俺は、とても心苦しかった。

 花が俺なんかに助けを求めたことに、ショックを受けていた……。

 彼女は何でも一人でできて、他人の力なんか必要としない、とても強い女の子なのだから。

 そんな彼女が俺なんかに助けを求めるなんて、あってはならないことだ……。

 でも、分かっていた。

 彼女だって俺たちと同じ人間だ。

 失敗するときや、誰かに助けを求めることだってある。

 そんなのは分かっていた。

 でも受け入れられなかった。

 俺は一人でなんでもそつなくこなしてしまう彼女に、尊敬し、あこがれていたのだから。

 彼女が弱さを見せて、誰かに助けを()うことが許せなかった。

 そして、そんな彼女の弱さを許容(きょよう)できない自分がもっと許せなかった……。

 いろんな感情が混ざりあって、頭がおかしくなりそうだった。

 俺は花に(つか)まれていた左手を振り払うと、『ごめん』と一言そう言って家の中に入った……。


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