視線……
翌日……。
あれから徹夜して無理やり宿題を終わらせた。
おかげさまで寝不足になっている。
こんなことならもっと早くから宿題をやっておけばよかったと思うが、まあもう終わったことなのでどうでもいい。
俺は机の上に出しっぱなしにしてあるプリントを鞄に入れて、学校へ行く支度をする。
いつも通りの時間に花がインターホンを鳴らして家へ来た。
「それじゃ言ってくる」
「行ってらっしゃーい!」
妹に見送られて家を出る。
そして玄関先に立っている花とあいさつを交わして登校した。
学校へ着き、俺たち二年生の教室へ行くための階段を上り、廊下を歩いていると……。
「ねぇ……あれって……」
「でも……」
「そんな人には見えないけど……」
小さいひそひそ声がそこかしこから聞こえてくる。
そしてそれは俺たちに向けられているものだと思われる……。
その証拠に、ちろちろと一瞬だけこっちを見ては目を逸らされている。
いったい何なんだ……。
まあ十中八九コイツ関係だと思うけど……。
隣を歩く花はまるで気にしていないようで、平然と教室へ入っていく。
俺たちが教室へ入ると、より周囲の視線が強くなった。
それでも動じていない様子の花に、何があったのかを聞くことにする。
「おい、お前夏休みの間に何かあったのか?」
そう聞くと花は、
「別に、些細なことよ……」
そういうと花は、頬杖をついて明後日の方向を見ていた。
何があったんだ……。
夏休みの間に一体何があったのか気になるが、隣の花は何も話してくれそうにないし、かといって他に聞くような友達もいない……。
俺も向けられる視線が少し痛いので、右腕を枕にして寝たふりをする態勢に入る。
俺が寝ようと右腕に頭を乗せようとしたとき、肩をちょんちょんとつつかれた。
誰だと思い振り向くと、女子生徒が不安な顔つきで立っていた……。
え? 何急に……。
てか誰だっけこの人。
見たことあるけど忘れたわ……。
眼鏡をかけた髪型はお下げで、見た目は地味目なその女子生徒は、廊下の方へ歩くとそこから俺を手招きした。
俺も女子生徒の後を追うように廊下へ出た。
廊下を出て左に曲がってすぐのところで、その女子生徒は待っていた。
「あの……」
声をかけてきた女子生徒だが、花と家族以外と話すのは久しぶりなので思うように言葉が出てこない……。
「えっと……。なに、かな?」
「あ、いやそのなんていうか……」
全く会話が進まない……。
コミュ障同士の会話ってこんなに酷かったっけ?
その女子生徒も緊張しているらしく、すぅと深い深呼吸をした後、真っすぐな瞳でこちらを見てくる。
「あの、矢木澤さんのことなんですけど……」
やっぱりその話か……。
「花がどうかしたのか?」
俺は女子生徒に続けるように促す。
「えーと、矢木澤さんが夏休み中に何があったのか知ってますか?」
花とは夏休み中に一回もあっていないので、何をしていたか全く知らん……。
「いや、特に知っていることは何もないけど……」
「そうなんですか……。今教室とかの雰囲気おかしいじゃないですか?」
「まあ確かに。それで、その理由を知ってるのか?」
「私も詳しくは知らないんですけど、何でも平野さんが関わっているとか……」
誰?
知らない女子生徒に知らない奴の名前を言われても困る……。
まず俺は目の前のこの女子すら知らないのに、平野なんて奴を知っているはずがない……。
何、この人の友達?
俺は困った表情をすると、何かを察した女子生徒が補足する。
「あ、平野さんって人はあそこに座ってる生徒のことで……」
目の前の女子生徒が指さす方へ目を向けると……。
「あいつ!?」
思わず声が出た。
その女子生徒が指さした生徒は、合唱コンで花と揉め、花の悪口を言っていた女子生徒だったのだ。
あいつ平野っていうのか……。
俺は目の前の女子生徒の方へ向きなおして、本題に入るように言う。
「それで? あの平野ってやつが何か関係してて、俺にどうして欲しいんだ?」
結局この人は何で俺を呼び出したんだ?
俺に何をしてもらいたいんだ……。
「いや、それは……」
そういった女子生徒は、言いずらそうして口ごもる……。
何なのこの人?
俺のこと好きなの?
そんなありえないことを思いつつも、目の前の女子のハッキリしない態度に少しイラついていた……。




