彼は決して許されることはない……
ここから50分もかかるのか……。
家から学校まで50分という、果てしなく遠い道のり……。
今まで5分ぐらいで登校していた、中学生活が懐かしい……。
往復100分というこれまた長い道のりである……。
しかも電車、自転車を使うという……。
「金もかかるし、遠いいし……はぁ……」
思わずため息が出る。
「あなた、さっきも言ったけどその臭い息を吐かないで頂戴。明日からマスクを持参しようかしら……」
下駄箱には先に帰ったはずの、矢木澤がいた。
「なんだお前、まだいたのか?」
「いや、あなたと別れてからそこまでの時間は経ってないわよ? あなたの脳みそは時間も測れないの?」
コイツ……。
一回一回俺に暴言を吐かないと、会話できないのか?
「まあそうだな、じゃあまた明日……」
「えぇ、無事に明日が来るといいわね……」
何それ怖い!
そんな脅迫まがいの別れを告げられて、帰ろうとするも……
「ちょっとあなた? いくら私が美人で、性格がいいからって、何でそんな堂々とストーカーしてくるわけ?」
「いや俺の家もこっちだし! てか覚えてんだろ……」
コイツは昔、何度も俺の家に来たことがあるんだ。
さすがに忘れてないよな……。
「……し……ない」
矢木澤は小さい声でつぶやく。
「な、なんだよ?」
「知らないわよ、あなたの家もあなたのことも! 昔の私だと思って、私に接してこないで頂戴……」
そういった矢木澤の顔は、どこか悲しそうだった……。
確かに彼女にとって、”俺”という存在は、昔の黒歴史なのかもしれない……。
彼女がこういった態度になるのも……無理はない……。
「悪かったよ……」
それ以上なんて言えばいいのか、分からなかった……。
「……」
「……」
沈黙が続く……。
でも、俺は過去の罪悪感からか、彼女に話しかけられないでいる。
……。
「ガタンガタン……」
無言で電車に乗る……。
「次は、小川ー小川。お降りの際は気を付けてお降りください」
次の駅か……。
矢木澤とは同じ電車に乗ったものの、車両は違う……。
もう降りてるだろうか……、それともまだ乗っているのだろうか……。
もう少しだけ話たかった気持ちが残る……。
俺が車両から降りると……。
「「あ……」」
矢木澤がいた……。
「ちょっとあなた? いつまでついてくる気? ストーカーとして警察のお世話になりたくなかったら、首を吊るか線路で電車に轢かれなさい」
それってどっちも死ねってことだよね!?
「いやいや、さっきも言ったけど俺も家こっちなんだよ!」
「まあいいわ、じゃあ今度こそ永遠にさようなら」
うん……、なんか余計な単語が聞こえたけど気のせいだろう……。
「うん、じゃあな……」
結局俺は彼女に罵倒されただけだった。
もし、もう一度幼馴染としてやり直せるなら……どんなに幸福だろう……。
柄にもなくそんなことを思う……。