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君だけの理解者になりたい  作者: ラリックマ
彼女の心境……
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彼女の涙……

「この教室に、何か用でもあるの?」


 矢木澤は平然とした様子で話しかけてくる……。


「いや、ここで制服に着替えようと思ってな……」


「そう……。なら私は出ていくわね……」


 早々に出ていこうとした矢木澤を、俺は止める。


「待てよ……。その……大丈夫か?」


 こういう時に、気の利いた言葉をかけてやれない自分に心底腹が立つ……。


「あら? 同情してくれるの?」


「同情って……」


「別に私のことを心配してるのなら気にしないで……。こういうの慣れてるから……」


 またしても出ていこうとする矢木澤の手首を掴んで無理やり止める……。


「心配するなっていうならよ……、そんな顔すんなよ」


 彼女の目には、大きな涙の粒ができていて、今にも泣きそうな表情だった……。


「どうして……」


 彼女は小さい声でつぶやいた……。


「どうして私に優しくするの?」


「どうしてってそれは……たった一人の幼馴染だからだろ……」


「幼馴染だから……ね……。ならもうこの関係は終わりにしましょう」


「それってどういう――」


「分からないの? 幼馴染っていう関係をやめにするってことよ……」


 俺の言葉をさえぎって、矢木澤は意味の分からないことを言い出す……。


「幼馴染をやめるって……意味わかんねえよ……」


「ならもっと分かりやすく言ってあげるわ……。私にもう二度と関わらないで。私のことは赤の他人と思ってちょうだい……」


 急に何言い出すんだコイツは……。


「そんなの『分かりました』っていえるわけねえだろ! どうしたんだよそんなこと言い出すなんて……? あいつに悪く言われたのがそんなに嫌だったのか……?」


「違うわ……。悪口を言われるのは別に関係ないのよ……」


「じゃあどうして……?」


「思い出したからよ……。あなたに見捨てられる恐怖を……」


「俺に見捨てられる……?」


 どういうことだか全く分からなかった……。


「忘れたの? 今から約二年ぐらい前のことなのに……」


 二年前……?

 二年前のこの時期といえば、矢木澤が転校してしまった時期と重なる……。

 それとこれの何が関係あるのだろうか……。


「全く覚えてなさそうな表情ね……」


 その時期に矢木澤が急に転校してしまったことは覚えている……。

 でも……その理由がよく思い出せない……。

 いや……。

 本当は覚えている……。

 ただ思い出したくなかった……。

 彼女が言った『見捨てる』という言葉は、俺の胸にすごくひびいた……。

 

「話は少し変わるけど、どうして私があなたに暴言や罵倒を言っているかわかる……?」


「それは……」

 

「あなたに嫌われたかったからよ……」


「え……それってどういう意味だよ……?」


「そのままよ……。またあんな思いはしたくなかった……。またあなたに見捨てられたくなかった。またあんな思いするぐらいなら、あなたに嫌われてしまうのがいいと思った……」


「……」


 俺は何も言えずに、ただ立ち尽くしていた……。


「だから夏休みのあの日、『今後は部活にも来なくていいし、私とも関わらないで』って言おうと思った……」


 そんなことを言おうとしてたのか……。


「でも言えなかった……。この高校生活、あなたと過ごしてみてやっぱり楽しかった。嫌われたいけど嫌われたくない気持ちが、心の中で葛藤かっとうしてた……」


「……」


「でもちょうどいいから今言うことにするわ……」


 矢木澤の目からは、涙が流れていた……。

 

「矢須優太君。私のことを心配してくれる必要もなければ、気遣う必要もないわ……」


 俺はその先の言葉を聞きたくなかった……。

 そのセリフを聞いてしまったら、もう今の関係には戻れない気がしたから……。

 でも矢木澤は、続きを話そうとする……。


「だからもう……私と関わらないで……。私に優しくしないで……」


 矢木澤は涙ながらに言葉を続ける……。


「また私に、あなたのことを好きにさせないで!」


 そう言い残して矢木澤は出ていったしまった……。

 俺は状況が()み込めずにいた。

 あいつが俺のことを”好き”だった……?

 矢木澤が最後に言い放った、『好きにさせないで』というのは、昔俺のことが好きだったということだろうか……。

 そんなことがあり得るのか……。

 思えば俺は、矢木澤のことを何にも知らなかったんだな……。

 彼女はいつも一人で、孤高(ここう)だと思っていた……。

 でも違った……。

 そういえばあいつがこの部活に入った理由は確か、『親友が欲しいから』って言ってたな……。

 彼女がいつも一人で何かをやっていたのは、”頼る相手”がいなかったからだ……。

 彼女は孤高ではなく孤独だったんだ……。

 ふと、昔のことを思い出す……。

 俺と彼女がまだ中学生だったころの、思い出したくない記憶を……。


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