彼女の伝えたいこと……
「それじゃあ、行ってきます……」
「うぅ……。お兄ちゃんが自分の部屋から出て外に行くなんて……。万葉感動で涙が止まらないよ……」
「おい、学校の時はいつも家から出てるだろ!」
「あれ? お兄ちゃんって学校行ってたっけ?」
おいおい嘘だろ……。
この子、実の兄に興味なさすぎじゃないですかね……?
「じゃあ遅くなるかもしれないから、母さんには行っといてくれ」
「うん、分かった!」
俺はいつも通りに駅まで行き、電車に乗る。
海崎駅は、俺がいつも降りてる電車の終点だ。
俺は待たされるのが嫌いなので、ギリギリに家を出たのだが……。
時刻は12時58分を指してるのに、矢木澤の姿が見えない……。
まあ後2分あるし……。
そう思って待ってみるが、2分経っても来ない……。
あいつ自分から呼んどいて遅刻するとは……。
来たら強く言ってやろうと思ったが、俺がボロクソにディスられるのが分かったので、余計なことは言わないことにした……。
「待ったかしら?」
五分ほどして矢木澤が、ゆっくりと歩いてきた……。
「あー、ちょー待ったわ」
「そういう時は『今来たところ』って普通は言うのよ? あなた、気も使えないの? そんなんだから社会不適合者なのよ……」
あれ?
何で先に来た俺がディスられてんの?
この人自分が遅れてきたのに、どんだけ偉そうなの!?
「まあ、それで……。話ってなんだよ?」
「その前に昼食にしないかしら? お腹が空いたわ……」
そういえば急に呼び出されたから、まだ何も食べてないな……。
「分かった。何にする?」
「矢須君が決めていいわよ」
「それじゃあ”あれ”で」
そういって俺はラーメン屋を指さす。
「あのね、そういうのは男の友達といってちょうだい……って友達いなかったわね。失言だったわ、ごめんなさい」
うん、わざとだよね……。
でもコイツラーメン好きじゃなかったっけ?
そんなことを思い出す……。
それより矢木澤にいつも通りの罵倒を受けるが……。
入学当時ほど、コイツの罵倒に傷つかないぞ……!
もしかしたら、俺はコイツに毎日暴言や罵倒を受けてきたことによって、ガラスのハートがプラスチックのハートに成長したのか!?
いやでもガラスからプラスチックってランク的に言ったら下がってね?
「じゃあダイヤモンドだな……」
「急に意味の分からない独り言を言わないで頂戴……。じゃあもうあそこでいいわよ」
矢木澤は俺が指したラーメン屋のすぐ隣にある、天丼屋を指さす……。
「じゃああそこにしよう……」
早速天丼屋に入る。
「俺はこれにするけど、矢木澤は?」
「私もあなたと同じのでいいわ……」
「分かった」
俺は、エビ天丼のチケットを買うと、店員に出した。
「それで、話ってなんだよ……?」
「それはもう少し後でいいかしら……? ここでは言いずらいわ……」
え?
言いずらいことなの?
余計聞きたくないんだけど……。
「お待たせしました……」
頼んで3分ほどで、エビ天丼が来た……。
「「いただきます」」
俺達は出されたエビ天丼をすぐに食べて、店をでた……。
「もう店の外に出たんだし、そろそろ話してくれよ……」
「もう少し待ちなさい、楽しみは後の方がいいでしょ?」
全く楽しみでも何でもないんだが……。
俺は、矢木澤が何を伝えるためにここに呼んだのか見当もつかず、内心ビクビクしていた……。