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ムラマサVSユイ

血統前刻(ムラマサ視点)


あれから四半時(30分)経った。

ユイは相変わらず、呑気に寝ている。

一思いに殺してやろうかとも考えたがどうせなら戦ってみたいので現在は殺人衝動を必死に押し殺している。

お菓子を食おうにも食えない体をしているので、飲食をして時間を潰す事も出来ない。

我ながらよく四半時も耐えられたとムラマサは思った。

しかし、妖忌が太刀に手をかけた時のあの殺気。

話してみると案外普通の人間(竜人)だが、戦いになった時は空気が変わった。

ただ、無駄なく相手を斬る、或いは殺す事のみを考えないとあそこまで空気は豹変しない。

4000年という長い時の中でムラマサよりも多くのものを殺してきたのかもしれないのだ。

いったいどのくらいのものが虫でも踏み潰すかの様に殺されてきたのか。

考えるだけで力の差を思い知らされる。

「まったく、嫌になるくらい御都合主義な奴だ。」

「ユイさんは、強く脆い方ですよ。」

いつの間にかいたこちらの世界の妖夢が話しかけてくる。

「飯は作らなくて良いのか?」

「少しだけ、師匠に代わってもらってます。」

そういうとユイの頭の横に妖夢は座ると、そっとユイの頭を撫でる。

「で、強く脆いってのはどういう事だ?」

「ユイさんは約4000年の月日を生きていますがその中の2974年間は『磔の牢獄』という所で監禁されていたんです。」

「監禁? 敵にでも捕まったのか?」

しかし、今のユイの強さを考えるとそれは考えにくい。

「いいえ、竜人族の政治の渦に巻き込まれたそうです。冤罪をかけられて。元々強かったのでそれを疎まれたのかもれません。詳しいことは教えて貰っていないんです。そこで、地獄の様な問いのない拷問を受けたそうです。」

「なるほど、精神はあれで不安定って事か。」

妖夢は無言で頷く。

「私達はユイさんを磔の牢獄に閉じ込めた張本人と戦っているんです。ただ、ユイさんは遭遇したみたいですがかなりそこで精神を削られたみたいで…多くの兵士達を殺し回る様な状況になっていたという話を聞きました。」

殺戮者。

ムラマサとは違って大勢の兵士を相手に殺し回るタイプという事だろう。

「暗殺者と殺戮者で戦い合うとはねぇ…」

ムラマサはそういうと縁側に寝そべった。

「少しばかり、楽しみになってきた。」

ムラマサはそういうと瞳を閉じる。

「大切な彼氏なんだから守ってやれよ。」

「なっ! 余計なお世話です!」

妖夢が顔を真っ赤にして大声を上げる。

ムラマサは笑いながら意識を眠りに落とした。

妖忌との戦いから半刻後(約1時間)、ユイとムラマサは妖忌と同じように庭でそれぞれの剣を構えて立っていた。

「ユイ。お前は俺に能力を教えてくれた。そこで俺の能力もあらかじめ紹介させて頂こう。俺の能力は『血を浴びれば浴びる程、強くなる程度の能力』。お前の血を、俺に寄越せ。」

「血だけならいいんだけどねぇ。殺し合いときたもんだから恐ろしい。」

ムラマサの口上ユイは苦笑気味に答える。

ムラマサが攻撃を仕掛けた。

ザンッ!

武骨な斬撃がユイへ飛ぶ。

「こりゃまた恐ろしい斬撃だ。」

ユイは太陽龍で流す。

流されただけだがムラマサの刀にはとてつもない衝撃を感じた。

(冗談みたいな強さ…)

そんな考えがムラマサの頭をよぎる。

ムラマサは向こうの世界では上位に食い込む強さを持っている。

元来の力もそうだが、「血を浴びれば浴びる程、強くなる程度の能力」で補填されている部分も大きい。

それを持ってしても届くか届かない程の力をユイは持っていた。

ムラマサは後ろに跳ぶと相手の出方を伺う事にした。


<ユイ>

こいつ…下手したら妖忌以上だ。

さっきの流しは流された相手がとんでもない衝撃を食うように考え出された剣技の1つだ。

だが、一切聞いている様子が無い。

恐らく感じている。

それを表に出さないのがこいつの強さ。

外の世界では「ポーカーフェイス」って言うのか?

さながら「戦闘面」と言ったところか。

こういう連中は攻撃の瞬間を察知するのが難しい。

妖忌の方では剣技ばかりを気にしていたが、腹の探り合いをしてみるのも良いかもしれない。


<ムラマサ>

痛てぇ…

本体がダメージを受けた訳だがあの流し方は一朝一夕で出来るものじゃ無い。

妖忌や妖夢のように30、50、200年と気が遠くなる程、修行しないと習得するのは不可能だ。

規格外すぎる強さ。

よく分からんが自然と笑みが溢れる。

刀を正眼に構えて相手の出方を伺う。

妖忌は時を斬るのに200年かかると言っていた。

こいつを斬るのには何年掛かるだろうか…

1000年以上だろうか…もしかするとそれより前に俺の存在が消えるかもしれない。

とりあえず今現在の目標は、斬撃をかすり傷でも当ててあいつの血を得るのが先決だ。


<side out>

お互いににらみ合いの姿勢に入る。

どちらも己の武器を構えて警戒する。

「にらみ合い、か。」

いつの間にか目を覚まして、縁側で正座している妖忌が呟く。

「妖忌、もう少し寝てなさい。」

「大丈夫だ。傷口は完全に塞がっているようだ。何故かはわからんが。」

「ユイが治したのよ。」

「そうか。」

そういうと妖忌は戦いの見物に戻る。

2人は相変わらず睨み合ったままだ。

やがてユイが動く。

陰と陽の軌道を微妙に変える事で、どちらかを躱そうと、弾こうと、流そうと次の行動を起こす間も無くもう一方が相手を斬るという内容自体は非常に簡素なものだ。

ムラマサも自分の不利を分かっていた。

なので、妖忌との試合でユイが実践した方法を取った。

素早く身をかがめて本体をユイの腹に向かって突き出す。

「ほう…」

ユイが感心したような声を上げて後ろに下がる。

その結果、ムラマサの左肩を陽が掠った。

「っ!」

なんとかその場に踏みとどまる。

(剣も滅茶苦茶な強さしてやがる。陰と陽…さしずめ陰陽道の剣か…俺と同じくらいの鋭さをしてやがる。)

そう考えるとムラマサは一旦本体を鞘に戻す。

「これはあまり得意じゃ無いが正直これぐらいしかお前を倒す手段が見当たらん。」

「一閃か。本来実戦向きでは無いが…」

そういうとユイは妖忌の時と同じ構えを取った。

一見隙だらけに見えるだろう。

だが、先にその構えを見たムラマサにはあれがどれだけ恐ろしいかがよく分かる。

しばらくの間の後、ムラマサは一瞬で間を詰める。

その勢いで一閃をするとユイは予想し防御体制を取る。

しかし、ムラマサは抜刀の速度を僅かに遅くした。

そのせいで、ユイの防御が若干手薄になる所ができた。

「そこ!」

刀が迫る。

ユイは動けない。

(このまま振り抜けば…)

ユイが鱗を出現させたのか体を捉えた瞬間、刀の勢いが削ぎ落とされる。

しかし、肉は引き裂いた。

血がムラマサの本体に染み付く。

ムラマサは流れ込んで来たあまりの力に頭が爆発しそうな感覚を覚えた。

「ぐあっ!」

思わず呻き声をあげる。

しかし、呻いている暇は無かった。

ユイが太陽龍を使って刀を引き抜くと更に太陰龍を使ってムラマサの手から本体を叩き上げる。

本体が手から消えたことで、ムラマサの姿が消える。

しかし、ムラマサは本体を握った状態で再び姿を取る。

空中で上段に構えるとユイに向かって振り下ろした。

しかし、ユイはそれを簡単に避ける。

(この感覚…ユイの血を得たから出来る新しい戦術か…)

新しいが非常にしっくりくる感覚にムラマサは口角を上げる。

「お前さん、いい面になったな。」

不意にユイがムラマサに言う。

ムラマサは更に笑顔を深めるとユイへ猛攻を開始した。

様々な攻撃をムラマサは繰り出す。

斬る、突く、叩く…

ユイに攻撃されそうになると一瞬だけ、本体へ意識を戻す。

一瞬後には、ユイの斬撃がムラマサがいた場所へ飛ぶ。

ユイの顔を見ると、ユイも笑っていた。

緋色の目が楽しげに開いている。

そんな応酬が1分ほど続いた。

新しい戦い方を会得したムラマサにユイはすぐに対応策を編み出す。

引っ込んだその瞬間だけ、狙いをムラマサ本体へ変更するのだ。

そうはさせじとムラマサも姿を見せたり消したり、時にはユイの横に本体を投げてそこに移動しユイに斬りかかったりと次々とムラマサにしか出来ない戦い方を確立させていく。

「随分と変わった戦い方をする様になったじゃないか。」

ユイが感心した様に言う。

「その割にお前には一太刀も浴びせられないんだがな。」

言うとおり、ムラマサが血を浴びてからはお互いに攻撃を当てることが出来ずにいた。

「全く、俺の血はそんなに美味かったか?」

「ご馳走さん!」

ムラマサはそう叫ぶと一旦ユイから離れ抜き身のまま本体を投げる。

ユイはムラマサを弾こうと剣を水平に構える。

しかし、ムラマサはユイに弾かれる直前で姿を見せると剣を持ち上げた。

弾く事のみを意識していたユイには対処のしようがない。

「お粗末さん。」

そう言うとユイはムラマサに斬られた。

「いや〜、参った参った。俺の血を得た辺りからガラッと戦術が変わったねぇ。」

「良く言うぜ。わざと斬られたくせによ。」

ユイとムラマサが言葉を交わし合う。

「あら? じゃあ、ユイはわざと斬られたって事かしら?」

いつの間にか、幽々子がユイの後ろで友好的とは言い難い雰囲気を出している。

「まぁ、そういうことさね。我が主人もそれをお望みだったらしいからな。」

ユイの返事に幽々子は一瞬だけ悔しそうな表情をしたが、すぐにいつもの顔に戻るとムラマサに話しかけた。

「それで、ユイと戦ってみてどうだったかしら?」

ムラマサは即答する。

「ほんの少しではあるが、ユイが手加減してくれたから勝てたと俺は思っている。言ってしまえば辛勝という訳だ。今回はユイの血も手に出来た事だし、いい経験にはなったと思う。ありがとな。」

そういうとムラマサはユイに頭を下げた。

慌てたのはユイだ。

「おいおいおい。やめてくれよ、礼なんて言われる人じゃないさ。竜人だけど。」

「そうか…」

そういうとムラマサはやっと頭を上げた。

そして、ユイを見て思い出したかの様に言葉を続ける。

「でも、その傷は直した方が良いな。」

ユイの体にはまだムラマサに斬られた傷が生々しく光っていた。

「そうだな。とは言っても、妖刀の傷傷跡が完全に消すことは鳳凰じゃないと出来ないけどな。良い思い出にするさ。」

そういうと、ユイはあっという間に文字で傷を治してしまった。

しかし、ユイの言った通り斬られた傷跡が残っている。

「さて、治療も済んだ事だし飯でも食おうぜ。妖夢もそろそろ飯を作り終える頃だ。大騒ぎしようぜ? お前さん方が来た事と、お前さんが俺を斬った事を祝ってな。」

そういうとユイは居間に向かって行った。

「斬られたことを祝うなんてどうかしてるんじゃねえのか?」

ムラマサはユイに言いながら後をついていく。

幽々子はいつの間にか消えていたが、おそらくもう居間にいるのだろう。

別世界とはいえ妖忌と話したいことは多くある筈だ。

賑やかな宴会が白玉楼で始まろうとしていた。

始まろうとしていた。

決して必ず始まるとは言ってない。

そして前書きのこちらの世界の妖夢とムラマサの会話を書いてみました。

いかがでしょうか?

コラボ相手様の陰猫(改)さんの小説「東方妖影剣~暗殺者ムラマサ~」もぜひ見てみてくださいね〜

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