妖忌VSユイ
老練の剣士との戦い。
何気に、戦闘シーンに大半を費やすのは初めてかもしれない…
文章量は少ないけど。
白玉楼でユイと妖夢がいつも剣術の指導をしている庭に、ユイと妖忌はそれぞれの剣を手に向かい合っていた。
妖忌は楼観剣と白楼剣を構えて油断なくユイを見据えている。
対するユイは妖夢の時と同じ様に、陽を担ぎ陰を無造作に握った状態で妖忌の攻撃を待つ。
「…その構えは挑発しているのか?」
妖忌が問う。
「挑発なんてとんでもない! 逆にこっちの首が落ちるぜ。」
ユイは驚いた様子で答える。
「そうか…いつまでも仮面を被るならいた仕方あるまい。」
そういうと妖忌は一瞬で距離を詰めるとユイの腹に左薙に楼観剣を振るう。
(ここまではあの時の妖夢と同じか。しかし…速い!)
躱す余裕すら与えられない。
ユイは攻撃をする事にした。
左手に持った太陰龍で袈裟斬りをし、妖忌のもう一方の刀、白楼剣を使えなくする算段だ。
しかし、妖忌はこれをいとも簡単に白楼剣で防いだ。
楼観剣が腹を捉える。
「ッガァァァ!」
ユイは痛みに呻きながら太陽龍を使って妖忌の楼観剣を無理矢理体から引き抜く。
驚いたのは妖忌だ。
まず、初撃を防ぐのが無理だと分かった途端攻撃へ切り替える反応の速さ。
次に痛みに躊躇う事無く楼観剣を引き抜く戦闘思考。
(これは想像以上だ…)
ユイから距離を取って妖忌は戦慄した。
「舐めていたのはこちらの方だったか。」
妖忌が目を細めて構え直す。
「お前さんとの戦いは骨が折れそうだ。全く、なんちゅう速さだ…」
ユイも呆れた様に構え直す。
今度はユイが攻撃を始めた。
弾幕を展開するとその間を縫って接近し剣を振り下ろす。
妖忌はそれを楼観剣1振りで流した。
しかし、ユイの攻撃は止まらない。
流されて空中で回転するのを利用して妖忌の胸に蹴りを入れた。
白楼剣で足を斬ろうとするが間に合わない。
妖忌は攻撃をモロに喰らい吹っ飛ばされた。
その先に待ち受けているのは弾幕だ。
妖忌は2振りの刀を振るい弾幕を斬っていく。
遠くの弾幕は斬撃を飛ばして斬る。
「…妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、無い!」
そう叫ぶと妖忌は一回転して衝撃を吸収し、ユイの元へ弾丸の様に飛び出した。
「うそだろ…」
そう呟くと、ユイは1歩下がり飛んできた妖忌の斬撃を斬る。
そのまま、飛び込んで来た妖忌の剣戟を躱す。
攻撃の余地は無かった。
(隙を見せる時間が短過ぎる。それに不規則なリズム。これをどう凌げと?)
ユイは何か突破口が無いか妖忌の攻撃を注意深く観察する。
(無理! 隙が無さすぎる。容赦無いぞこのじいさん。いや、俺の方が年上だった。)
そんなどうでもいい事も考えながら避け続けていると庭の端まで追い込まれた。
(恐らく最後まで油断無く確実な方法で斬ってくる。絶対に大技は使わない筈だ。そうなると…)
ユイは溜め息を吐くと、妖忌の懐を目掛けて体当たりする。
しかしそれより早く、白楼剣がユイの右肩を貫く。
「ッ!」
そのままユイは空中で1回転すると白楼剣を刺されたまま妖忌の後ろに回り込む。
無事な左腕に握られている太陰龍を振って妖忌の背中に斬りかかった。
妖忌は咄嗟に身を躱すが和服が少し斬れた。
それ以上ユイは攻撃することなく1度後ろに跳び、距離を取る。
「化け物かよ…」
ユイは白楼剣を右肩から引き抜いて妖忌に向かって放り投げる。
「時を斬るのに二百年。その時すら斬らせる隙を見せないとは…お見事。」
妖忌が白楼剣を空中で掴むと鞘に収める。
「使わないのか?」
「儂なりの敬意の示し方だ。」
「そうかい…」
そういうとユイは太陰龍と太陽龍を混淆させて太極へと剣を変える。
「俺なりのケジメの付け方だ。やられっぱなしは性に合わなくてね。」
そういうと一瞬で距離を詰める。
妖忌は落ち着いて刀で突く動作をするがユイは消えていた。
「何処に…」
次の瞬間、後ろに殺気を感じた妖忌は前転して斬撃を躱す。
「あらゆる物を斬ると言うならば、それを超える速さで攻撃をすれば良いだけだ。」
言葉を紡ぎながらユイはとてつもないスピードで攻撃を繰り出す。
その圧倒的な速さに妖忌の顔にかすり傷が増えていく。
なんとか刀を振って凌いでいるがそれを遥かに凌駕する勢いで攻撃しているので、攻撃が当たってしまう。
だが刀で凌いでいるおかげでかすり傷で済んでいるのもまた事実だった。
ガッ!
ユイと妖忌の剣が鎬を削りあう。
力なら圧倒的にユイの方が有利だ。
妖忌はそれを分かっていたのか削り合いを早々に切り上げるとユイの追撃を1撃だけ躱し、攻撃後の隙に漬け込んで攻撃を再開した。
あの隙のない攻撃がユイに襲い掛かる。
ユイはなんとかそれを見切って隙を再び探る。
「楼観剣1振りとはいえ相変わらず対応しづらい攻撃だ!」
そう叫ぶとユイは、楼観剣に大極龍をかち合わせる。
あまりの衝撃に妖忌の攻撃が一瞬止まる。
しかし、ユイにはその一瞬で良かった。
妖忌の腹に太極龍を突き込む。
「グハッ!」
口から血を吐き妖忌がぐったりとする。
意識を手放したようだ。
「勝負あり、だな。」
そういうとユイはそっと妖忌から太極龍を引き抜く。
完全に引き抜いた瞬間にユイは「治」の字を使ってあっという間に貫通した妖忌の傷を塞いでしまった。
「今でも末でも恐ろしい爺さんだ。幽々子、このご老体の服ってある?」
「えぇ、あるわよ。確か妖忌の部屋にあったはず。取ってきましょうか?」
「いや、それだけ聞けば十分。」
そういうとユイは文字で妖忌の服を出現させた。
「ムラマサ君に伝授させて頂こう。これが俺の能力、『文字を操る程度の能力』だ。」
そういうユイの様子はどこか誇らしげだ。
「『文字を操る程度の能力』?」
しかし、ムラマサはいまいちピンときていない様子だ。
「いいか、文字っていうのは無限の可能性を持っているんじゃないかと俺は思っているんだ。文字があったからこそ名刀にもその刀匠の名前が刻まれ、その知名度が上がる。」
「なるほど、お前の能力は文字を使って回復したり傷付けたり、他にも武器を具現化させたり、物を手元に呼ぶ事ができるということだな?」
「そういう事だ!」
ユイは理解してもらえて嬉しそうな顔をしている。
(意外と単純な奴だな…)
妖忌を縁側に寝かせると今度は自分の傷を治癒し始める。
特に大きい傷は1番最初に食らった腹の傷で半分ほどまで斬られていた。
その痛みは計り知れない。
しかし、ユイはそれを一切顔に出す事なく妖忌と戦い続け、そして勝った。
(面白い…)
ムラマサは静かに闘志を滾らせる。
(痛みを感じない竜人、ユイと妖忌のどっちが化け物か分からんな…)
その時、ユイがムラマサの所へやってきた。
ムラマサは静かに立ち上がる。
「えっとさ、ちょっと休ませてもらっていい? 傷は治っても体力は回復しなくて。研究はしているんだけどね。」
「…え?」
ムラマサはぽかんした表情を浮かべる。
「…休む?」
「そう、休む。君と十二分に戦う為にね。」
そういうとユイは少し離れたところに寝転がった。
「どのくらい休むんだ?」
「半刻(約1時間)。」
「そんなに待てるか!」
怒鳴り立てるムラマサにユイはのらりくらりと答える。
「ダメだよ。そこは『それもまた一興』で返せるようにならないと。しばらくは何かお菓子でも食べて待ってたら?」
そういうとユイはそのままねむってしまった。
「天真爛漫ねぇ…」
幽々子が困った様に言う。
「はぁ…」
ムラマサは大きなため息をつくとそのまま縁側に座り直した。
ユイくんが天真爛漫すぎる件について…