祭りのあと
「ハチこんな所にいたの。……ハチどこいくの」
ハチは虎之助達と合流すると今度は向きを変え走りだした。
「放っておくわけにはいかん、追うぞ」
マイクはハチを連れロンドン塔内を散歩させていた時、密かに抜け道を教えていた。マイクはハチによく言って聞かせていた「ハチ、良く聞いてくれ。ここは秘密の通路だ。ここから外に出られる。何かあったらジェイ様を連れて逃げるんだぞ」
外に出るとイアンが待っていた、イアンはテムズ川に小舟を用意していた。ロンドン塔の舟には穴をあけておいた。ジェイとイアン、ハチと同じ小舟で、虎之助と小夜、倉場は別の小舟で、ジェイを匿ってくれる教会へ向かった。林高政達は別に逃げた。
道々、イアンはジェイに状況を話した。教会近くの川岸に着くとジェイは虎之助に言った。
「マイクを殺したのは、あなたですか?」
虎之助は頷いた。
「彼は英国の為に必要な人だったのです。他の人達もそうです。
彼らを犠牲にしてまで助かる必要なんてありません。私の覚悟は出来ていました。あなたは信じないのですか?」
虎之助は黙って聞いているだけだった。
「この子はあなた方の犬ですか?」
虎之助は頷いた。
「あなた方が勝手な事ばかりするから、この子は逃げ出したのです。あなた方のように危険な事ばかりする人には還せません。私が引き取ります。この子だけは離しません。……この子だけは」
ジェイはハチを連れて教会へ入ろうとして足を止めた。
「私は、これから犠牲になった方々の為に祈りを捧げます。そして、あなた方の無事も」
「ハチ、お姫様を頼んだよ」
倉場はジェイ様を匿っても大丈夫なのか、神父様に聞いた
「この教会は元々カトリック教会ですので、カトリックに戻るのは然したる抵抗もありません。元に戻るだけですので。メアリ女王様の覚えもめでたいのです。只、新教も もっと知る必要はあると思うのです。若い者達に研究させてもおります。ジェイ様がおられれば、教えを乞う事も出来ましょう」
白吉達は一足先に、テオが来る事になっている人気のない海岸へと向かった。そこから脱出するつもりだった。
途中、何かの祭りをやっていた。売子の婦人が高政達に声をかけた。
「珍しい風変わりなお兄さん方、飲んでいきなよ」
グラスを差し出されたが、高政は、要らないと手でゼスチャーした。
「いや、今は酒を断っておる。まだまだ険しい道中なのじゃ」
「チョットアンタ方、男かい? 金はある、病気でもない。それで飲まない男なんて聞いた事ないね」
「いやだから今は、いやだからチョット」
「だからチョットだけいいじゃないか」
しばらくして、すっかり顔が赤くなった高政達は祭りを後にした。
「ジャラ、ジャラ、ジャラ」黒酢の三太は懐の金貨をジャラジャラさせながら歩いた。
「チョット、しょんべん行ってくらー」と白吉。
「オレも」と太郎丸。太郎丸はどんどん脇の方へと離れていった。
「どこまでいくんだ」と白吉。太郎丸はしゃがみ込んだ。
「わっ、くっせえ。誰か通ったら一発でわかるぜ」
祭りの騒めき、そして音楽が遠くになりつつあったが、別の音楽も聞こえるような。楽隊が練り歩いているようだ。
楽隊はこちら側にきているようだ。徐々に近くなってきた。先頭には馬にのったリーダーが指揮棒を持っている。リーダーは片腕を包帯で巻いていた。近くまで来ると楽隊は止まった。
「ん?」三太達はリーダーをみる。ピートだった。ピートが指揮棒を振り上げると、三太は「クソっ、囲まれた」。そしてピートは前方へと指し示した。両脇は茂みで、回り込んでいた伏兵が一斉に弓を放った。
高政は刀を抜きかけたまま倒れた。光の源も倒れた。黒酢の三太も思うように動けず倒れた。
「おっ、重い」三太は起き上がろうとしたが無理だった。力が抜けるとチャリッと音がした。
「コイツ等の目的は何だ? 盗みか、盗みだけか? 何故コイツ等がジェイ様を……。どちらにしてもロンドン塔を荒らし回った、賊である事には違いない。賊は残らず成敗せねばならん。カゲトラ、待っておれ」