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哀れな生き物

よろしくお願いします。

 さて、ここからは邪魔者はいない。

 さくさくと行こうか。


 我は40階に着いた。

 そこにいたボスは巨大な鎧の戦士が2体。


「ふむ。ギガント・リビングアーマーか」


 盾と斧を持つ2体の巨鎧。

 普通ならばスキルがあっても、かなりの強敵だ。

 というか、絶望に近い感情を覚えるだろう。


 まぁ、どんなに大きかろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()がな。


「【鋼懐】」


 【鋼】を使って、鎧と武器を砂鉄に変えて崩す。

 しかし、砂鉄が蠢く。


「【浄化】」


 砂鉄に向かって、光を飛ばす。

 光を浴びた砂鉄は力を失い、再び崩れ落ちる。

 

「ふむ。やはり浄化せぬと倒しきれぬか。ふむ。あの男のスキルでも倒せたのだろうか」


 確か【キャンセル】だったか。

 魔力も消せるようだが。

 ふむ。今度試してみるか。

 

 我はその後も問題なく、50階まで降りる。

 そこで魔力の質が少し変わったのを感じる。


 ふむ。ボスとは違うな。

 迷宮の主か。

 しかし、ふむ?この魔力は……。


 我は少し疑問を覚えながら進む。

 進んだ先は、まるで玉座の間の様に広く、豪華な空間だった。

 その奥には玉座があった。


 その玉座には男が座っていた。

 金と赤の衣装を着ており、褐色肌に白い髪をしている。


「ようやくここまで来たか。随分と悠長なことだ。人間どもは」


 男はつまらなさそうに我を見る。


「しかも1人とは。全く興醒めだな」


 男を見て、首を傾げる。

 ふむ?どこかで見たような?


「まぁいい。せめて名乗ってやろう。私はこの迷宮の主、アワリティアの魔王、ゴマーレドである」

「……ゴマーレド?」

 

 我はその名前に聞き覚えがあった。


「貴様、【横取りのゴマーレド】か?貴様が魔王だと?」

「なに?」

 

 自分のことを知っていることに眉を顰めるゴマーレド。


「人の手柄や宝物を盗むしか能がなかった貴様が魔王?しかも迷宮の主だと?」

「なぜ貴様如きが私の事を知っている!?」


 ゴマーレドはいつも強者の後ろにいて、手柄や宝物を見つけた瞬間にそれを自分の物になるように騙し、奪い、逃げるのだ。

 自分が先頭に立って、何かをすることがないので【横取り】と呼ばれるようになった。

 どうあっても魔王になどなれる存在ではない。


「もしや……迷宮とは神族に捕らえられた罪人の牢獄なのか?それを迷宮の核で強化されている?」

「違うわ!!これは報酬だったのだ!神族に協力したな!」


 その言葉に我は全てを悟る。

 なるほど。餌に釣られて、ここに縛られたか。

 それを見栄で【強欲の魔王】を名乗ったか。

 哀れな。


「貴様は誰だ!?貴様のことなどが私は知らん!」

「そうであろうな。我は少し前に【闇淀の坩堝】から生まれた魔王の融合体だ」

「や……闇淀の坩堝…だと?融合体?」


 ゴマーレドは目を見開く。

 

「貴様はどうでもいいが、迷宮の核には興味がある。大人しく渡せ」

「ふ……ふざけるな!!もはや私の命は核と同調しているのだ!自分の命を渡す馬鹿がいるか!」

「そうか……。では先に死ね」


 我はゴマーレドを燃やす。

 しかし、ゴマーレドはその火を振り払う。


「小賢しい!!」


 ゴマーレドの服は焦げるが、体は無傷だった。

 ふむ?


「貴様には今のを防ぐ術など無かったはずだが」

「迷宮の主だぞ!以前の私とは違うわ!!僅かであっても神王の力だぞ!」


 ほう?やはり神王が作ったのか。

 これは良いことを聞いた。


「では、色々と試させてもらおう」


 我は氷、炎、風、水、土、雷など様々な属性のスキルを放つ。

 しかし、それも防ぐゴマーレド。


「えぇい!!一体いくつの力を持っている!?」


 ゴマーレドに一気に近づく我。

 右手には光の剣を生み出し、ゴマーレドに振り下ろす。

 それを容易く砕かれる。

 そして、腕を掴まれる。

 ゴマーレドはニヤァっと笑う。


「馬鹿め。私に近づくとはな。頂くぞ!!貴様のスキル!!【奪取(キャプチャー)】!!」


 何かが吸われるような感覚が襲う。


「ははははははは!!馬鹿めが!!頂いたぶべぇ!?」


 高笑いしているゴマーレドの顔に蹴りを放ち、吹き飛ばす。

 柱を何本か砕きながら吹き飛ぶ。

 なんとか立て直し、我を睨む。

 口から血を流しているが、それを拭う。


「ふん!悪あがきをしよって。もう貴様は終わりだ」

「そうなのか?」

「感じたろう?体から力が吸われるのを!我が力は【触れたものの力を奪う】!」

「で?何を奪ったのだ?」

「それはなぁ!……はぁ?」


 ゴマーレドはにやけながら確認するが、すぐに間抜けな顔を晒す。

 何も奪えてなかったのだ。

 魔力が少し増えただけだ。


「何故だ!?確かに貴様から奪ったはず!?」

「奪えるわけがなかろう。そんな矮小な力で」


 いくら神王に力を与えられていようが、横取りしか能がないスキルに奪われるほど、我のスキルは弱くない。

 我の【万能】【無限】【転性】を奪うにはゴマーレドの器はあまりにも小さい。

 まぁ、ゴマーレドが敵わない魔王と異王が何百と混じっているのだから当然ではあるが。


「じゃあ、終わらせましょうか」


 女に変わる妾。


「なぁ!?貴様……!一体何者だ!?」

「だから魔王だって言ってるでしょうが」

「ごぅえ!?」


 蹴り飛ばされるゴマーレド。

 抵抗しようとするが、全く歯が立たない。

 吹き飛ばされ続け、玉座に叩き込まれるゴマーレド。

 衝撃で椅子が砕け、尻餅をつく。


「ぐぅ……が、あ……。なん…だ……これ…は」


 ゴマーレドはあまりのダメージに起き上がれない。

 仰向けに倒れている胸元に足が踏みつけられる。

 

「がぁっ!?」

「こんなものよね。元が元だし」


 ゴマーレドを冷めた目で見る。

 力を込めて、踏みつぶそうとする。


「がぁ!……あっ……がっ!?」


 ゴマーレドは足を掴むも抵抗できない。

 スキルを奪おうとするも、またも失敗する。

 いや、それどころか、

(っ!?逆に吸われているだと!?)


 逆に力が吸われているのを感じるゴマーレド。

 目を見開き、バアルの顔に目を向ける。

 バアルはにぃ~~~っと笑っていた。


「気づいた?自分が吸われてることに」


 ゴマーレドは離れようとするが、脚はビクともしない。


「早く逃げないと死んじゃうわよ?まぁ、()()()()()()()()()()()()()()けどね」

「なぁ?」


 その言葉にゴマーレドは凍り付く。

 スキルを使おうとするが、全く使えない。


「な……なぜ…だ?」

「妾のスキルは【闇】。全てを塗りつぶし、全てを吸い込む底無しの世界。あんたの矮小な力と一緒にしないでくれる?」

「……!!」

「もらったわよ?あんたの魔力とスキル。それと」


 胸の上から足を除ける。

 そして、腕をゴマーレドの胸に突き刺す。


「ごふっ!?」

「ここの【核】もね」


 ゴマーレドの胸から取り出したのは、真っ赤な結晶体。

 手のひらサイズで紅く輝き、中にはかなりの魔力が渦巻いている。

 ゴマーレドは腕を震わせながら、取り返そうと手を伸ばす。


 妾はゴマーレドを蹴り飛ばして、壁に叩きつける。


「あがぁ……!」


 ゴマーレドはもはや起き上がれない。

 口や胸から血を流し、震えているだけだ。

 目を見開き、妾を見ている。


 妾はゴマーレドに近づきながら、口を大きく開けて、()()()()()()()()()()


「んぐ…ぐ…う…はぁ~。……フフフフ。アハハハハハハハハハハハハ!!」


 それを飲み込んだ妾は高笑いする。

 感じたのだ。

 神王の力を取り込んだのを。

 力の階位が上がったのを。

 神族の力をものにしたのを。

 

 膨大な魔力が体内を渦巻く。


「これは素晴らしいわ!!神王は妾のためにこんな慰謝料を用意してくれるなんて!なんて優しくて、なんて馬鹿なのかしら!アハハハハハハハハハハハハ!!」

「あ……あ……あ」

「んあ?あんた、まだ生きてたの?」


 妾の行動をゴマーレドは絶望を覚えながら眺めていた。

 それに気づいた妾。


「もう核は溶けて無くなったわよ。あんたはもうただの人間。諦めてさっさと死になさい」

 

 冷たく言い放つ。

 魔力も失い、スキルも失い、迷宮の核も失ったゴマーレドには生き残る術はない。


「わた…し……は……な…んの……ために……今ま…でぇ」

「決まってるじゃない。妾に捧げるためよ」


 妾はゴマーレドにニタァっと笑う。


「弱者は、強者の糧になるために存在しているのよ。この世で最も強い妾に捧げるのは当然。だから、あんたは役目を終えただけ、なのよ。喜びなさい。その存在に意味があったことを。無価値な人間に捧げることなく終わったことを」


 そう言って、背を向ける妾。

 ゴマーレドはそれを眺めながら、意識が遠のき、闇へと沈んでいった。




 妾は玉座の間を出た。


ドグンッ!!


「ぐぅ!?」


 胸を押さえて蹲る。

 急に魔力が溢れ出し、抑え込めない。

 

 これは!?

 神王の力?

 違う。

 そんな感じではない。

 では、なんだ?

 

 妾は混乱する。

 すると、魔力だけでなく、肉体にも変化を感じた。


 そうか。

 取り込んだ魔力に適合しようとしているだけか。

 いや、違うな。

 

 これは……。

 そうか。

 今の妾は……『蛹』だったか。


 起きていることを完全に理解した。


 妾は変化に身を任せる。


 すると、魔力がバアルを包み、黒い繭の様なものを作る。


 魔王は眠る。


 世界もそれを見守る。


 最悪の存在の誕生を妨げる者は、誰もいない。



ありがとうございました。



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