強欲な迷宮
よろしくお願いします。
我はすでに迷宮内に入っていた。
迷宮内は岩でできた洞窟のようなところで、迷路のようになっている。
我は迷わずに奥を目指す。
スキルで簡単に道中が分かってしまうのだ。
「ふむ。【万能】とは便利だな。まぁ、【全能】ではないから過信は禁物か」
【万能】は最強と言えるが、あくまで『人』の枠の中でだ。
神王には届かない。
死者蘇生までは出来ないし、自身より強い者には力が及ばない。
それに【万能】は無から有は生み出せても、有から無には出来ない。
【破壊】は出来るが、【消滅】は出来ない。
「しかし、【欲食の洞穴】か。それがどういう意味を持つのか」
迷宮内を進み続ける。
ゴブリン、コボルトが襲ってくる。
「ふむ。魔力を飛ばしているのに、目の前に来るまで怯みもせん。目の前に来て怯んでも逃げん……か」
迷宮に作られた魔物は、迷宮からの命令に支配されているか。
「逃げる」という意思を持てない、ということか。
「燃え散れ」
骨すらも残さずに、灰にする。
それを3回ほど繰り返すが、魔物は攻めてくる。
ふむ。哀れだな。
地下6階まで降りる。
ここまで冒険者は誰にも会わんな。
もう攻略済みなのか?
それでも新入りとか1人、2人はいるだろう。
迷宮では、いる階層しか【探査】は出来ん。
我でも弾かれる。
ふむ?
魔物は大して強くない。
変わってはいるようだが、弱すぎてどう変わったか分からん。
しばらく歩き続ける。
地下10階まで降りると、人の気配を感じた。
「ふむ。ようやくか」
10人ほどがこの先で集まっている。
我が歩いていくと、そこは少し開けた空間だった。
そこにいたのはこっちを睨む男達がいた。
男達は我を見ると、武器を抜いた。
「ふむ。山賊の類か?」
「ふざけるな!!カデーイに何しやがった!」
「カデーイ?」
我は男の言葉に首を傾げる。
そんな名前の男は知らん。
その様子に男達は顔をさらに怒りに染める。
「てめぇ!あいつを骸骨みたいにしときながら覚えてねぇだと!?」
「あぁ。あ奴の事か。カデーイというのか」
並べ替えると「デカイ」だな。
名は体を表すか。
「もしや、死んだのか?」
「まだだ!でも、あんなもの!死んだも当然だ!」
カデーイは話すこともまともに出来ない。
話そうとしたら、喉に激痛が走ったからだ。
彼は今、ベッドの上からまともに動くことが出来ない。
「あいつのスキルも【虚弱】に変わっていた!何をした!?」
「そのままだ。変えただけだ。スキルを」
『っ!?』
スキルを変化させるなんて出来るはずがない。
それが常識だ。
「我にとっては容易いことだ」
「戻せ!でなければ殺すぞ!!」
「やってみるがいい」
男達は我に剣を向けて脅す。
我はポケットに両手を入れたまま話す。
「我を殺してみよ。まぁ、殺せば戻せぬがな。そして、殺せなければ我は貴様らの言いなりになどならんぞ?」
「……っ!?」
男達はその言葉に動けなくなる。
我はため息を吐く。
「愚かよな。実力も理解せず、数で脅せば屈すると考える」
我は魔力を放出する。
男達はその魔力量に身を竦めてしまう。
「【鋼懐】」
突如、男達の武器や鎧が崩れる。
正確には武器の鉄で出来ている部分が崩れた。
「なんだ!?」
「チクショウ!」
「なんだよこれ!?」
戦闘にいた男は驚くも、すぐに持ち直す。
我を睨みながら、両手から風を生み出す。
「スキルか!てめぇ……いくつ持ってやがる!?」
「さあな。数えたことはない。で?まだやるの?」
『なぁ!?』
我は話しながら女に変わる。
それを見た男達は目を見開き、驚愕する。
もう訳が分からない。
男達は目の前の存在が分からず、恐怖が大きくなる。
「なんだよ……。なんなんだよぉ……!おまえはぁ!!」
「魔王よ」
妾は闇を放ち、男達を飲みこむ。
闇は圧縮されるように小さな玉になり、パキッと割れて消える。
そこにはもう男達の姿はなかった。
「さて、この迷宮の情報ももらったし。さっさと行きましょうか」
男達がバアルの魔力量に慌てている時に【読心】でここの情報を読み取っていた。
ここはまだ攻略されておらず、分かっているのは36階層まで。
10階層ごとに転送陣があるらしく、一度通れば次からは続きから行ける。
今、トップ冒険者達が攻略を続けているらしい。
その時は迷宮に近づかないのが、冒険者内での暗黙の了解らしい。
これは冒険者同士の争いを減らすためのものだ。
攻略してる時に、後ろから冒険者に攻め込まれるのを防ぐ。
もちろん無視する者は出るが、大抵小物で返り討ちに合うか、途中で魔物に殺されている。
「ま、妾には関係ないわね」
妾は歩き続ける。
……ここどこよ。
迷ってしまったため、男に戻る。
やはり、細々したものは男の役目か。
……女は強しだな。
20階まで一気に降りる。
そこには大きな扉があった。
ふむ。ボス部屋か。
10階にはなかったな。
あの男共をボスとしとくか。
我は中に入る。
中にいたのは、
「………オーガか」
「「「ゴアァァァァ!!」」」
オーガが3体。
とはいえ、前戦った奴よりやや小さいな。
……やる気が出んな。
「ふむぅ。……【凍塵】」
我から凍気が放たれる。
オーガ達は凍気に触れた瞬間に凍り付く。
我はため息を吐いて、次に風を起こす。
風に煽られてオーガの氷像達は倒れて砕ける。
「盛り上がらん」
なんの感動もなく歩き始める。
そう言えば、あのオーガはなんだったのか結局わからんかったな。
まぁ、もうどうでもいいが。
21階からは迷宮の様相が変わった。
洞窟ではなく森になった。
どういう理屈なのか。
我の知識にもないな。
というか……迷宮など聞いたことがなかったな。
ふむ。……我の力も届かないということは、神が関わっている可能性が高い、か。
魔物は虫系や樹木系に変わったが、我には特に問題はなかった。
さっさと進む。
30階は何もない。
しかし、多くのテントが張られていた。
ボスは20階層ごとか。
そして、ここは進んでいる連中の拠点か。
なるほど。こうしているから、上には誰もいなかったのか。
我が通り抜けようとすると、留守番がいたようで声を掛けてくる。
「おい!この先は俺達が攻略中だ!帰りやがれ!」
「断る」
「はぁ!?」
「別に抜いてはいかんという明確なルールは無かろう?なら、止められる必要はない」
「て、てめぇ!街で冒険者出来なくなるぞ!?」
留守番の男は顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
我は男に関心を向けることなく、歩き始める。
男は剣を抜いて、立ち塞がる。
「止まれって言ってんだよ!」
「ほう?剣を向けるか。死ぬ覚悟はあるのだな?」
「っ!?」
我の雰囲気が変わり、ビビる男。
しかし、剣を向けた以上今更引き下がれない。
「はああぁ!!」
男は剣を振り挙げて飛び掛かる。
我は無感情にスキルを使う。
「燃え散れ」
ボゥッと男の全身に火が付き、一瞬で灰になる。
ため息を吐くと、歩き始める。
31階以降も森だった。
魔物は少し変わったが、バアルは気づかない。
38階に辿り着いた。
そこに入った途端、多くの人の気配を感じた。
「ほう。まだここにいたのか。随分とゆっくりだな」
歩き続けると、少し開けた所に20人ほどの冒険者達がいた。
冒険者達はすでにバアルの存在に気づいていたようだ。
「てめぇ、なんでここに来た。俺らが攻略中だって知ってんだろ?」
先頭にいた左目に大きな傷跡がある隻眼の男が話しかけてくる。
後ろには槍を持った緑髪の女と弓を構えた茶髪の男がいる。
「それがどうした?別にお前らを抜いたところで問題なかろう?別にここはお前達が買い取ったわけでもなかろうに」
「……戦争になるぞ?」
「それが?それも含めて冒険者だろうに」
「……」
我の言葉に男は黙り込む。
後ろの女が声を荒げる。
「あんた!ここで私達を敵に回すと後悔するよ!」
「……はぁ~」
「なんだ!?その態度は!」
女の言葉に我はため息を吐く。
女はそれを見て、さらに声を荒げる。
「燃え散れ」
「っ!?ちぃ!!」
我はスキルを発動する。
すると、隻眼の男は舌打ちする。
男達が炎に包まれて灰になる。
しかし、隻眼の男を含め、周辺にいた8人は何故か燃えなかった。
「ふむ。それが貴様のスキルか」
「……そうだ。【魔消しのジェルド】。それが俺の名前だ」
ジェルドのスキルは【キャンセル】。
周囲3m内のスキルの発動・魔力の発現を無効にする。
「ふむ」
「後悔しても遅いよ!」
「待て!!ヴェラン!」
「っ!?なんでよ!!」
「うかつに手を出すんじゃねぇよ」
ジェルドは飛び出そうとしたヴェランを制止する。
ふむ。随分と慎重だな。
これだけを率いていただけはあるか。
「ここまで一人で来てんだ。それに一瞬で半分もやられた。侮るんじゃねぇ」
ジェルドの言葉に悔しそうに顔を歪めるヴェラン。
ふむ。
「もう遅いがな」
「あ?」
ジェルドは訝しむ。
すると、ジェルドの胸から剣が3本も生えてきた。
「っ!?がふっ!!」
「ジェルド!?」
「っ!?てめぇらぁ!何してやがる!!」
ジェルドは口から血を噴き出して、膝から崩れ落ちる。
ヴェランは慌てて支える。
弓を構えていた男が目を向けると、仲間だった者達が目を血走せて剣を握っていた。
男は仲間達が正気でないことに気づく。
「てめぇ!!何しやがった!!」
「そ奴らにはその男が我に見えている。そ奴らはお前達のために剣を振るったにすぎん」
「てめぇ……!複数持ちか!」
「さて、どうかな」
男は矢を放とうと弓を構える。
すると、男の弓矢が弾けて砕ける。
「がぁ!?」
「リット!!」
リットは弾けた弓矢の破片が顔を襲い、目を潰す。
仲間達は気づくと、ジェルドが血だらけになり、リットが顔を押さえている状況に混乱する。
刺したはずの男が変わらず立っているのにも訳が分からない。
「……っ!?が!……あ!?……っ!」
急に男の1人が首を押さえて苦しみだす。
すると、周りにいた男達も苦しみだす。
「何が……何が起きているの……!?」
「酸素が無くて苦しんでいるだけだ。すぐに静かになる」
「っ!?」
バアルの言葉にヴェランは目を見開く。
この男は一体いくつスキルを持っているのかと。
「さて、無事なのはお前だけだ」
「っ!?」
リットや仲間達が炎に包まれて消える。
ヴェランはもはや心が折れて、涙を流して震えている。
ジェルドはもはや虫の息だ。
「言い残すことはあるか?」
「……私達は手を引くわ。街にも報告はしない」
「それが死に際の言葉か。つまらんな」
「ま、待って!?見逃して!!」
ヴェランは慌てるも、足が動かなかった。
足に目を向けると、石に変化していた。
「ひぃ!?や、やだ!助けて!!」
ヴェランは慌てるも、バランはすでに歩き始めていた。
ヴェランはジェルドを揺さぶる。
「ジェルド!起きて!起きてぇ!!スキルを使って!!石になる!石になっちゃう!!」
ジェルドに声を掛けるも、ジェルドはすでに息絶えていた。
それにも気づかず、ヴェランはジェルドに抱き着き、耳元で叫ぶ。
「助けてぇ!!ジェルドォ!助けてよおぉ!!!嫌あぁぁぁぁぁぁ!!!」
しばらくすると、声は響かなくなった。
後日、調査に来た冒険者達は、腐り始めた死体に悲痛な表情で抱き着いている女の石像を発見したそうだ。
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